伝説のスピーチ

 

1992年のブラジル、リオでの地球環境サミットで
セヴァン・スズキという日系四世の12歳の少女が「伝説のスピーチ」を行いました。

どうしてもこの伝説のスピーチが知りたくなり、YouTubeで見る事が出来ました。

先ずは圧倒されます。理路整然とした内容に、抑揚をつけた声でハッキリとスピーチしています。
原稿が素晴しい。自分の意志が十分に盛り込まれていて、この内容を誰に伝えたいのかが明確に分かる。

良く通る声である。舞台役者でも敵わない表現力である。
スピーチ中の彼女の表情からは、12歳という年齢と少女という甘えは微塵もない。

聞いている各国の政治家や研究者達が圧倒されてしまい唖然としている姿が映し出されている。

「どうやって直すかわからないものを、こわしつづけるのはもうやめてください。」
学校で、幼稚園でさえ、あなたがた大人は私たちに、世のなかでどうふるまうかを教えてくれます

「ならばなぜ、あなたがたは、私たちにするなということをしているのですか。」

あなたがたはいつも私たちを愛しているといいます。
「もしその言葉が本当なら、どうか、本当だということを行動でしめしてください。」

世界の代表者を相手に対等の立場で発言しているのです。

大人は言葉を組み立てるのが上手です。しかし組み立て過ぎて本質を失います。
子供は言葉の組み立てが未熟です。しかし飾りなき言葉だから胸を打つのです。

彼女は現在32歳、環境問題活動家として活躍を続けている。正に地球のダンヌジャルクのようです。

「2009年エルサレム賞村上春樹氏の授賞式スピーチ」

わたくしは今日、小説家として、つまり嘘を紡ぐプロという立場でエルサレムに来ました。
小説家の嘘は大きければ大きいほど評価される。
ましてやそれを非道徳的と批判の対象にはならないのである。

今回の授賞式出席にはかなりの数の日本人から出ないように言われました。
出席すれば不買運動を起こすと警告する人さえもいました。

これらはもちろん、ガザ地区での戦闘の為でした。
1000人以上の非武装の市民が命を落としたのです。

この賞を受賞するという事はエルサレムを支持している事に繋がらないかとても心配をしたのですが、
反対者があまりにも多いので敢えて私は出席することにしたのです。

凄いですよね、
小説家として大成功して巨万の富を得ても真実を探る為に敢えて危険な場所に出向くのですから。

それもガザ地区に攻撃を仕掛けているイスラエルの首都エルサレムでのスピーチです。

私が最も感動した言葉は、
「非常に個人的なメッセージです。私の心の壁に刻まれているものなのです。
それは「高くて、固い壁があり、それにぶっかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ」
その壁がいくら正しく、卵が正しくないとしても、私は卵サイドに立ちます。」

正直言ってこの言葉を聞いた時には驚きました。
エルサレムの中でこの様な発言をして大丈夫だろうかと心配しました。

「そして今我々の前には「システム」と言われる堅固な壁に直面している壊れやすい卵なのです。
勝利の希望がみえることがあるとしたら、私たち自身や他者の独自性やかけがいのなさを、
さらに魂を互いに交わらせることで得ることのできる温かみを強く信じることから
生じるものでなければならないでしょう。

「システム」がわれわれを食い物にすることは許してはなりません。」

この言葉は世界に同時に配信されたのです。
「システム」という言葉を色々な言葉に置き換えてみると、村上春樹が伝えようとした真意は分かるはずです。

この発言こそ私自身が感じる日本人の「誇り」なのです。
弱者救済の教育を受けた国民にしか出来ない行為なのです。

多勢に無勢で採決することを良しとしない国民だからです。

全ての弱者を排斥する考えが起これば世界の破滅の序章になります。
大切なのは遠くから発言するのではなく、互いの温もりが伝わる距離でする発言です。

「2010年ハーバード大学白熱教室、マイケルサンデル教授の講義」

「一人殺せば五人が助かる状況だったら、君ならその一人を殺すか」

豊かさが常に正しいという考え方を持つアメリカの、権威有る大学ハーバード大学での講義である。
その中から「今正義について考える」は大きな話題となった。

富の分配について富裕層から貧困層に再分配するのは弾圧だと哲学者ロバート・ノージックは言う。
しかし国家が決定した事だから正しいという意見と、多数の人が選んだり決めた事が、
全て正しいと判断するのは可笑しいと、反論する意見が出て来る。

それに対してサンデルは民主主義を否定するのかと追及してくる。

多くの教育者は自分の考えを押し付けようとする中で、サンデルの手法は学生達と議題を共有し、
意見を戦わしながら答えを見つけ出していく。
議論こそが民主主義の原点である事を教える。

まさにギリシャ時代の市民会議を彷彿させるのではないか。
目の前にアリストテレスやカント等の哲学者が出現するような緊張感漂う授業風景である。

ここで学生達はスピーチの重要性を学んでいく。
主張する事によって自分自身の「正義」を表明するのである。

日本人にとつて「正義」は道徳として当たり前に存在するが、他の国では「正義」程、難しいものない。

「正義」とは道徳的な生活に必要な判断力で、誰もが必要とする能力だという。
民族的、宗教的、国家的な考えからおこる「正義」は多種多様な意味合いを持つ事になる。

世界の戦争のほとんどが宗教から来る「正義」の主張である事が許せない。
道徳を武器にして戦う事が非道徳な行為だと理解できないのが不思議である。

サンデル教授の授業に参加をしたいものである。

世の中には沢山の名スピーチがあります。
スピーチから学ぶ事は多くあります。
それはこのような議論の機会に巡り合えて、討論を積み重ねることこそ名スピーチの発言者となるのです。

これからも気付く限り数多くの名スピーチを紹介して行きたいと思います。

そして最後にこの言葉を刻みます。

「スピーチの上手な人は偉業を達する。偉業を達した人はスピーチが上手だ!」