老人脳




あるNPO団体の役員をなされている
年配の女性の方から相談を受けました。
組織内のトラブルで困っているという事でした。

団体のトップの方も高齢の女性なのですが、
以前に比べて包容力がなくなり、
人の意見に対して反対意見を述べることが多くなった。

会員の方々からの意見や提案もことごとく反対する。
それでみんなやる気をなくしている。
ボランティアで参加しているのに作業中の笑顔を中止される。
どうすれば良いでしょうかと云う内容でした。

私からの回答はあの方はすでに「老人脳」になられているので
それを分かった上でお付き合いくださいと言いました。
若い頃と違って肉体も精神も少しのことで敏感に反応します。
長い間いろいろな経験でうまくいってないことがあふれていて
これも駄目、あれも駄目、本人としては親切心で言っているのです。
それを「若者脳」で考えてあれこれ指摘するのは間違っているのです。
役員のあなたが間に入りそれをフォローすることが大切ですよ。

高齢者とのお付き合いは一般常識で正しい悪いでは判断してはなりません。
相手の悪いところばかり言い合うから気分が低下してしまうのです。
逆に相手の良かったところを取り上げれば、ちょっとした問題も
笑って気にならなくなります。
「私たちがフォローすればいいだけじゃないか」
と気持ちを切り替えて元気なスタッフと前に進めれば良いだけですよ。

総じて一般的に歳を取ると、周りが気にならなくなる、記憶が曖昧になる、
同じ主張をくり返す、感情的になる……年齢とともにそういう傾向になる
人がかなりいます。こういう行動を知らず知らずにとってしまうのは
脳の老化現象の一種です。これを「老人脳」と呼んでいます。

しかし、これまでの研究と世界中の脳の老化研究から分かってきた
ことは、脳の老化現象である「老人脳」は後天的な原因で40%起きており、
日々のさまざまな習慣(思考×行動)の積み重ねによって変えることが
できるということ。また、習慣を変えることで、
老人脳を遠ざけることができるのです。

新しいことをすることは、脳にいいという話をしてきましたが、
それを習慣化することが簡単ではない人もいるようです。
そういう人の話を聞いていると、「新しいこと」というのを
ちょっと大げさに考えすぎてしまっていることがあります。
この知人のように、「ちょっとしたこと」で十分です。
それだけで、脳は変化します。

例えば、散歩や通勤で歩いている人であれば、その道をときどき変えてみる。
図書館に行く、書店に行くという習慣をつけることも脳にいい行為です。
実は、読書の習慣がある人ほど健康寿命が長くなるという研究報告もあります。

ニューヨーク大学の実験でこのようなものがあります。
学生のグループを2つに分けて、言葉の羅列で文章をつくってもらう
という実験です。
1つ目のグループには「グレー」「孤独」「忘れやすい」「退職」などの
年配者のような言葉を使ってもらう。
2つ目のグループにはニュートラルな言葉で文章をつくってもらう。
「のどがかわいた」「キレイな」「プライベート」などです。
そしてグループごとに移動をしてもらったところ、なんと年配者のような
言葉を使ったグループメンバーの歩くスピードが遅くなってしまったのです。
これにはビックリしました。

この実験から分かることは、使った言葉がその後の行動に影響を
与えるということです。どういう言葉を使うかで、無意識のうちに
行動が変わります。どういう言葉を使うかは、大切です。

次の言葉は脳にマイナスになる「使わないほうがいい言葉」です。
これらの言葉は、使った瞬間に脳が悪い影響を受けてしまいます。
例えば、「疲れた」と言った瞬間に、疲れたイメージが脳に出てきます。
その結果、疲れたようなパフォーマンスをしてしまい、
本当に疲れた状態になってしまうのです。
実際にはそこまで疲れていなくても、脳が勝手に疲れた状態を
つくり出してしまうことになります。

「分からない」「難しい」などの言葉も、脳にとっては危険な言葉の1つです。
思考をフリーズさせないためにも、使わないほうがいいと思います。
また、自分のことをこう言ったり、考えたりするのは止めたほうが
いいでしょう。これは脳にとっての3大NGワードです。
・(老けた)・(歳をとった)・(もう若くない)
歳をとっているというイメージは、死亡リスクまで高めます。

自分の年齢に対して実年齢よりも8~13歳高く感じている人は、
死亡リスクや病気リスクが通常より18~35%高かったというのです。
「歳をとり、人生が悪化している」「若い頃に比べると幸せでない」
「実年齢より老けている」「顔が同年齢の人に比べて老けている」など、
自分は老けている、歳とともに幸せが減っていると考えている人は、
脳の老化のペースが速く、病気リスクや死亡リスクが上がるのです。

幸福度と脳の状態には関連性があるということを知っていますか?
残念なことに、日本は世界的に見て幸福度が高くない国ですが、
どうしたらここ日本でも手軽に幸福度を上げることができるのでしょうか?

1つ、すぐにできるいい方法を紹介します。
昔の楽しい思い出を振り返る。これだけです。
幸福度が高い人を調べていくと「過去の楽しい思い出を振り返る頻度が高い」
ことが分かりました。
どうでしょうか? これならすぐできそうですよね。
幸せは、過去の楽しかった記憶の数に比例するといわれています。
いま現在幸せを感じられなかったとしても、過去に楽しい記憶を
持っていれば幸福度は高まります。

それを思い出す頻度が高い人ほど幸福度が上がりやすくなるのです。
自分の頭の中で思い出すのでもいいですし、誰かと思い出を話しながら
共有するのもいいと思います。過去の楽しかったことを思い出すと、
どうでしょうか、すごくいい気持ちになりませんか。
ものを買っただけの幸せは長く続きませんが、幸せな思い出は長続きします。
また、私たちは24歳前後に流行っていた曲を最も好む調査結果もあるので、
当時の曲を聴いてみたり、カラオケで歌うのもおすすめです。

「老人叱るな行く道だから!若者叱るな来た道だから」
永六輔の「無名人名語録」に収録されている言葉です。
世代を超えてお付き合いするのは創意工夫が必要ですよ。
ましてや老人脳の年配の方には気配りが必要です。