生きる




作家の収入は本の印税と数少ない講演の寸志ぐらいしかない。
ましてや詩人の方々の収入となると微々たるものであることが想像つく。
しかし、多彩な才能を持っていた谷川俊太郎の場合はこれに反する。
谷川俊太郎といえば鉄腕アトムの主題歌の作詞家であり、
世界的人気のスヌーピーの翻訳家でもある。

国民的な詩人ともいえる谷川俊太郎のキャリアは60年以上になります。
谷川俊太郎は、1931年12月15日生まれなので、2018年には87歳に。
1952年に20歳そこそこで処女詩集を発表してから、人生のほとんどを
「言葉」にまつわる仕事に費やして生きてきたと言えるでしょう。

谷川俊太郎が翻訳を手掛けた「スイミー」は、
世界的な絵本作家レオ・レオニの代表作。
谷川俊太郎の翻訳により、日本でも広く親しまれる作品となりました。
その他にも、スヌーピーで知られるチャールズ・M・シュルツ作の
アメリカのコミック「ピーナッツ」を翻訳し、こちらも人気に。
また、「空をこえて ラララ 星のかなた」の歌い出しで知られるアニメ
「鉄腕アトム」の主題歌の作詞を担当したのも谷川俊太郎です。

その仕事は幅広く、「スイミー」のような絵本の翻訳や作詞だけでなく、
映画やドラマの脚本も手掛けています。1965年に発表された
市川崑監督の斬新な演出がきわだった公式記録映画「東京オリンピック」では、
脚本チームに参加。
この作品は、カンヌ国際映画祭で国際批評家賞を受賞しました。

2006年発表の映画「ヤーチャイカ」では、覚和歌子とともに共同監督を務め、
新しい表現にチャレンジ。
少し例をあげただけでも、広範で膨大な仕事を成し遂げていることが
分かる詩人・谷川俊太郎。先日92歳の寿命を全うされて天国へと旅立ちました。

私が担当した女性歌手が、谷川俊太郎が大好きで良く話をしてくれた。
その当時に発売された彼女の写真集か自叙伝に一筆いただいた記憶がある。
そういえば雑誌社に頼んで対談をしたこともあった。

谷川俊太郎の詩は軽やかである。
巨匠詩人のような古い言葉を多用することもない。
一般人が読めないような難しい漢字も使わない。
日常の中をさりげなく切り取っている。
だから女性に親しまれて愛されて来た詩人である。

私は詩人の存在がいかに大切か言い続けている。
詩人の言葉は時代を横切る生の声だからだ。
詩人は庶民が味わう喜びや悲しみや悲恋を見事に
短い言葉で表現してくれている。
また時には戦争など社会情勢が不穏な時には鉄槌を喰らわす時もある。

子供の頃は文学を目指すことも憧れることも許されなかった。
音楽も然りで飯の種にならないから絶対にその道には進むなと言われた。
日本国中、敗戦から復興までガムシャラに働き続けた。
汗水流すことが仕事で部屋にこもってすることは仕事と見做されなかった。

少し国に余裕が出て来てラジオやテレビが家庭に入るようになり、
FENから音楽が流れて、NHKのラジオドラマが始まった。
もっぱら家庭の中の話題は歌やスポーツや映画に集中した。

その時代を経て女性雑誌が飛ぶように売れる時代になった。
写真家が提供する世界の国々そこに憧れの女性が映り込む。
いきなり最新ファッションが街中を覆い尽くした。
その時に数多くの詩人の言葉が掲載されるようになり地位が確保された。

しかし時代が変わりデジタル社会になると現実の世界で楽しむより
仮想の世界で楽しむようになり文字との接点が減り雑誌も様々な書籍も
激減してしまった。それは何を意味するかというと人間の生の感情と
メッセージが届かなくなるということです。

残念なことにデジタルの文字には感情がありません!
こういうと反発する方も大勢いると思いますが、詩のように文字の
奥いきを感じ取らないと、ただの活字を読むだけで終わるので、
なかなか若者たちには馴染めない。

先日亡くなった谷川俊太郎さんのこの作品「生きる」
この詩を読んであなたはどのように感じるのでしょうか?

生きる
谷川俊太郎氏

『生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木もれ陽がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること
あなたと手をつなぐこと

生きているということ
いま生きているということ
それはミニスカート
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
すべての美しいものに出会うということ
そして
かくされた悪を注意深くこばむこと

生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ

生きているということ
いま生きているということ
いま遠くで犬が吠えるということ
いま地球が廻っているということ
いまどこかで産声があがるということ
いまどこかで兵士が傷つくということ
いまぶらんこがゆれているということ
いまいまが過ぎてゆくこと

生きているということ
いま生きているということ
鳥ははばたくということ
海はとどろくということ
かたつむりははうということ
人は愛するということ
あなたの手のぬくみ
いのちということ』

合掌
谷川俊太郎さんただひたすらにお疲れ様でした。
天国でも詩人として作品を残してくださいね。
ありがとうございます。