難解な本を読む




敢えて難解な本を読む
若い頃には本などあまり読まなかった。
知識より行動が全ての時間を取り込んでいた。
学びは行動の後に合わさるものだと
王陽明の「知行合一」を誤釈していた。

それがある時にニーチェ、ヴィトゲンシュタイン、サルトル、スピノザを
読み始めた。その中でもいちばん難解だったのがハイデガーの「存在と時間」
だった。日本の哲学者木田元もこの難解な本を読む為に哲学の勉強を
始めたという。そして日本哲学の祖西田幾多郎に私淑したという。

同じ人間としてどうすればこの様な難解な文章が思い浮かぶのか
興味を惹かれた。そして最近この本に出会った時にも震えるほど興奮した。
森信三「恩の形而上学」である。左脳が理解できない難解な本である。
森信三は教育者として沢山の金言を残している。
「恩の形而上学」は見たことも無い古い漢字の表現の為に、辞書片手でないと
一行も読み進まない。

そういえば昔読んだ道元禅師の「正法眼蔵随聞記」の時も難解すぎて
読み終えることが出来なかったことを思い出した。
江戸時代の寺子屋では意味もわからずに子供達は素読に励んだ。
親の仕事を引き継ぐことしかなかった時代に知的好奇心に刺激を与えた。
難解な言葉もパズルを解く様に楽しいことだったに違いない。
日本人の識字率が高いのは「漢字」に興味が魅かれるからである。
西洋で使うアルファベットにはそれがない。

森信三「恩の形而上学」
読者からのレビューをいくつか載せてみた。

「人生の真のスタートは『人生二度なし』という真理をいかに深く
痛感するかということから始まる」この言葉に象徴されるように、
易しく私たちの歩む道を説かれた
森信三師だが、若き頃は、西晋一郎、西田幾多郎という日本を代表する
哲学者に師事した、教育者であるとともにれっきとした哲学者でもあった。
本書は哲学者である森師としての著作で、師が確立した日本的哲学、
「全一学」の入門書として四十三歳の時に記したものだ。
高弟の寺田一清氏は「この一書に一代の哲学体系の萌芽のすべてが
包含されている感がする」という。本書は弊社から刊行される「幻の哲学三部作」
の第一弾で、哲学者として世に問うた著作であるだけに、非常に読み応えのある
一冊となっている。
味読することで遥か高みにある師の精神性と「人生二度なし」の背後にある
深い思索の跡が垣間見えてくることだろう。

あとがきの寺田一清氏の言葉にもあるように「難解」という言葉がまさに
ぴったりでした。言わんとされるところはおぼろげながらわかるのですが、
選ばれる言葉の一つ一つがすでに現代では見ない字も多く、漢和辞典片手に
漢字の意味を読み解きながら読了。森先生が提唱される「全一学」の入り口の
本になるのだろうか?頭の体操をしている感じでしたが、それでも後半はまだ
読みやすくなり、先生らしい文章になるほどと感じ入るところも多く
おもしろく拝読しました。少しおいてからもう一度読み直します。

修身教授録とは表裏双璧をなす本だと思います。森信三師が39歳の時に
世に出した学問書としての処女作であり彼の全一学の入門書、とありますが、
哲学入門者レベルの人が、修身教授録のような会話口調の分かりやすい
人生訓を期待していると、その独特の文体や用語の難しさも含めて
チンプンカンプンになると思います。彼が本を書くときに手元に置いたと
言われる正法眼蔵(道元)、他にはバガヴァットギーターなどのインド哲学、
中村天風の神人冥合などにも触れておくと掴みやすいかもしれません。
以上

私は敢えて飲み込みにくい文章を読むことによって脳に刺激を与える。
脳は使えば使うほど活性化して知識を咀嚼しながら進化していく。
大学を卒業して社会に出て仕事を覚えて人間関係に悩まされる。
誰かに相談すると弱い人間だと思われるから1人悶々とする。
そんな時には難解な本を読むことを勧めて来た。

読書は、子供の頃学校の教育方針に従わなければならないが、
大人は自分の好みで本を選ぶことが出来ます。
仕事の疲れから少しでも負担になることから目を逸らすのです。
その為に平易な趣味や娯楽の本にストレス解消を求めます。
これは食事でも同じです。大人達は忙しいことを理由に
レトロトやインスタント食品を食べますが、子供達は親が与えなければ
食べることはありません。
遺伝子組み換えや農薬まみれの野菜は子供の成長に悪影響を与えるのです。
なるべくなら身体によいものを食べるようにしてください。

読書の癖を作るには子供が好奇心を持つ絵本や童話など一緒に読むことです。
文字と絵と声で脳内の細胞へ染み込ませるのです。
子供は1人になるとゲームやTVに釘付けになるものです。
親も自分の時間を作りたいために放置してしまうのは致し方のないことです。
でもせめて3歳から6歳までには読書の癖をつけてあげてください。
情緒を司る前頭葉の発達が一番活発に成長する時です。

来るべきAIの時代に対抗するのは人間の創造力と感性です。
このどちらも良書から学び取ることが出来ます。
更に紙のページをめくることをおすすめします。指先に伝わる感触とかすかに残る
インクの匂いが左脳に刺激を与えるのです。
そして必ずポストイットと大学ノートを用意してください。

私の場合は速読で一通り読みます。その際に気になった言葉にポストイットを
貼り、さらに時間をおいてからその個所を読み直します。
そして必ず読書感想と自分なりの解釈をノートに書き込みます。

その回数を重ねるとまるで自分の言葉の様に記憶に残ります。
皆様も試してください。

さて今夜も難解な本を読んで眠りにつくとしましよう。
今夜選んだ本は「江戸社会と国学」ピーター・ノスコ著です。
この本は今年2月に不慮の事故で急逝した画家の友人から頂いた本です。
すでに4~5回は読んでいる本です。
いたるところの行間に彼との思い出がよみがえります。
秋の夜長は読書の時間です。灯火親しむ秋ですよ。