音楽のちから




大切な記憶が少しずつ失われ、人格が変わってしまう。
単純な計算や日常動作ができなくなり、妄想・徘徊・暴言などを繰り返す。
やがては家族の顔も、自分が誰なのかも分からなくなり、
もうろうとしたまま寝たきりの最期を過ごす・・・。
こんなイメージのある認知症だが、決して大げさな表現ではない。
できれば生涯認知症とは無縁のまま、人生の最後までハッキリと自分らしく
過ごしたいというのは、人類共通の願いだろう。

新潮社より「認知症にならない最高の習慣」という書籍が出版された。
それによると、認知症の発症には40代頃からの生活習慣が大きく
関わることが分かってきたという。ようは、脳に悪い暮らしを
長く送っている人ほど早くボケが始まってしまう、ということだ。

実際にアメリカでは生活習慣改善と栄養補給を中心とした
アルツハイマー病の治療プログラムが開発され、大きな成果をあげている。
特に早期の患者であれば、その改善率は9割にも達するというから驚きだ。
“認知症は予防も改善もできない”という常識が、医学の進歩によって
少しずつ変わりつつある。

このようなブログの書き込みがありました。
「音楽の力で、体と心をほぐしていく」

「ひばり馬事公苑」と書かれた扉を開けると、
松田聖子さんの『赤いスイートピー』のイントロが聴こえてきた。
しかも力強い歌声! ここはデイサービスには珍しく、
音楽療法を行う施設だ。日中はこんなふうに、
70代以上の利用者たちが賑々しく“音楽会”を開いている。

「高齢者でも音に合わせて体が動くケースがあるんです。
私の祖母も『♪もしもし亀よ』と歌ったら足が動いたと言っていました。
それに、認知症の方が童謡のメロディを聴いた途端、
歌詞がスラスラ出てきた
例もあるそうです。精神的なリラックスにも繋がりますし、
音楽の力って不思議だなと思います」

昨年春から働く平田ひなさんは、音楽療法士の資格を持っている。
故郷の鹿児島では奄美大島出身の祖父が歌う島唄を聴き、
音楽が身近な環境で育った。音楽家になろうとは思わなかったが、
仕事には繋げたい。出会ったのが音楽療法だった。

「近代では約100年前にイギリスで体系化されました。
日本では障害のある子どもたちに行うケアでしたが、近年、
脳の活性化や心身に安定をもたらすリハビリテーションとして
介護の分野でも注目されるように。
私も介護での音楽療法を経験しておきたいと思い、
調べてこの施設を知ったんです」
 
出勤したらお茶を沸かし、消毒をして、送迎に出かける。
利用者が揃うと昼なので、お弁当を準備。午後はいよいよ音楽会だ。
担当する回は歌う曲や歌詞パネルを用意し、そうではない日は
事務作業を行う。夕方はまた送迎へ出向き、終礼。8時半から17時半まで、
慌ただしく毎日が過ぎてゆく。

「皆さんが目を輝かせて歌うのを見ると、私まで嬉しくなります。
休憩時間も楽しいんです。様々な経験をされてきた方がご縁で
集まる場所なので、お話が聞けるのがありがたくて」

当初は「介護」という言葉の持つイメージに不安もあったが、
現場に入るといい意味でギャップがあったという。

「音楽デイということもあってか、自立して歩かれる方が多いですし、
トイレ介助も多くありません。介護にも様々な仕事があると知りました。
ですから、気になったらまずは見学をしてみてほしいです。
結局のところ、介護は対人関係じゃないかなと思います。
人と向き合い、思い出話や好きな歌の話を聞く。
それがケアに繋がっていくと思っています」

平田ひな
ひらた・ひな 1999年、鹿児島県生まれ。
奄美大島出身の祖父の島唄を聴いて育つ。
音楽を嗜み、吹奏楽からロックまでオールジャンルを好む。
音楽療法の学校を卒業後、2023年に上京し、ひばり馬事公苑に就職。
音楽はライブで観る派。

九州福岡県大宰府にデイサービスセンター「ららら」があります
私の友人鹿子生實子さんが理事長を務めている
健能レク体操を取り入れたセンターです。
特徴は北九州大学と共同開発をした「健能リハビリテーション」を
基本プログラムとしています。

これまでの高齢者一人ひとりの人生や生活背景を把握し、
その一環として創作されたのが、独自のロコモ体操です。
曲は九州で人気のシンガー冨永祐輔が提供しています。

その他、機能回復訓練に基づいてさまざまなサービスが付帯されています。
聞き手の反対側の手を使い習字や簡単な裁縫などすることで健能に繋がります。
センターの庭の自家菜園で作られた野菜を使いお料理をしたり、
漬物を作ったり、干し柿にもしてホテルなどへ販売もしています。
もちろん自分達の食卓にも出して楽しんでいます。

また施設の壁一面(高さ2・5メートル、幅5メートル)に描かれた
四季折々のテーマに沿った下書きに合わせて、利用者が新聞を丸めて、
チラシに色を塗り、棒状にして貼り付けて見事な壁画を創り出します。
毎年一回福岡の中心地の展示会場で発表を行いマスコミにも紹介されています。
素晴らしい作品の仕上がりに見学者のみなさん驚きます。

そして毎月らららコンサートと銘打ってプロの音楽家が
コンサートを行っています。
普段、デイサービスでは取り上げない、生演奏のクラッシックから
ポップス・ジャズまで多才な出演者で、近隣にあるライブハウスも
共同企画を考えるほどです。

民謡や童謡やカラオケで時間つぶしをするのではなく、
プレスリーや流行りのロックでも年寄扱いをせずにBGMで流して、
若いスタッフと共に笑いの絶えないデイサービスの施設です。

みなさまも音楽のちからを信じてください。
私も施設のアドバイザーとしてお伺いしています。
開放感にあふれた素晴らしい施設です。