徳ある人




一流の音楽プロデューサーを目指して人の3倍は働いた。
土日も無くスタジオや宣伝活動に時間を費やした。
家庭を顧みず付き合いと称して飲み会やゴルフに誘われるままについて行った。
海外へも録音や撮影で頻繁に出かけた。そして30代後半に身体を壊した。
同時期にCBSSONYのワールド・コンベンションでマイアミへ招待された。
仕事が出来る人間に見られたいために、時間もお金も家族も犠牲にしてきた。
気が付いたら独りよがりの孤独との戦いばかりしていた気がする。
「徳」とはかけ離れた人生を送っていた気がする。

「徳不孤 必有隣」(論語)  
徳は孤ならず 必ず隣有り

本当に徳のある人は孤立したり、孤独であるということは無い。
純一高潔な人や謹厳実直な人はとかく近寄りがたく敬遠されがちなこともあるが、
しかし、如何に峻厳、高潔で近寄りがたいと言っても真に徳さえあれば、必ず人は
理解し、その徳をしたい教えを請う道人や支持するよき隣人たちが集まって来る
ものである。

承福寺の開山と仰ぐ「月庵宗光禅師」は峰翁祖一禅師のもとで出家し、
厳しい鉗鎚を受けて印可(悟りの境地が認められること)が許されて、
さらに大虫宗岑禅師の下でさらに悟境を磨き、宗岑和尚の法を継がれた。
その後、行脚して悟境を磨き、但馬(兵庫県北部)の幽深静寂な黒川の里に
小さな草庵を結んで枯淡の生活を送っていました。

しかし、いくばくも無くその道香は自ずから発揮され、宗光禅師の下に雲水
(修行者)たちが集まり、民衆はあい寄って伽藍を造営しまもなく黒川の山中は
禅の一大道場となったと言います。それは今もある雲頂山・大明寺である。

その後、師の峰翁禅師は博多・崇福寺に入寺され、宗光禅師は師の峰翁禅師を
崇福寺に訪ねられたとき、承福寺の創開に当たり、禅師の徳風の大いなるを仰ぐ
懇請によって承福寺に入寺開堂説法されて承福寺の開山(初祖)となられたのである。

時の朝廷は開山様の徳を讃えて「正続大祖禅師」の贈名を賜わっている。
人はおうおうにして、自ら学び得たことや、技量が世間に省みられず、
認められないことは耐え難いことである。

ところが、それまで己の主義主張や心操を曲げて、世間に妥協し世間に迎合して
しまいがちになることも少なくない。
しかし、意志堅固に道を求め続け、学において究め続けていれば、
身に光は備わりおのずから理解者は現れ、支持する人も出てくるものなのだ。

「陰徳陽報」ということばがあるが、目立当が目立つまいが、人の嫌がる
ことや、避けて終いがちなことでも、喜んでさせていただく下座行、陰徳の行を
修めることによって自ずから身に光は備わり、徳は高まり、人々は慕い集ってきて
孤にしてはおかないものであ

「陰徳」あれば必ず「陽報」ありとは、人知れずよい行いをする者には、必ずよい報いが
あるということ。
「陰徳」とは、陰で得を積むこと。「陽報」は、はっきりと現れるよい報いのこと。

『淮南子・人間訓』に「陰徳有る者は、必ず陽報有り。陰行有る者は、必ず昭名有り
(人知れず徳を積む者には必ず誰の目にも明らかなよい報いがあり、
隠れて善行をしている者には必ずはっきりとした名誉があるものだ)」とある。

アメリカ合衆国の建国の父
ベンジャミン・フランクリンは13の「徳」全てを習慣として身に付けようと
自分に課しました。アメリカ合衆国の政治家、外交官、思想家、著述家、発明家、物理学者、
気象学者。印刷業で成功を収めた後、政界に進出。アメリカの独立に多大な貢献をした。

1.節制(temperance)
頭や体が鈍くなるほど食べないこと。はめをはずすほどお酒を飲まないこと。
2.沈黙(silence)
他人あるいは自分に利益にならないことは話さないこと。よけいな無駄話はしないこと。
3.規律(order)
自分の持ち物はすべて置き場所を決めておく。仕事はそれぞれ時間を決めて行うこと。
4.決断(resolution)
なすべきことはやろうと決心すること。決心したことは、必ずやり遂げること。
5.節約(frugality)
他人や自分に役立つことのみにお金を使うこと。すなわち、無駄遣いはしないこと。
6.勤勉(industry)
時間を無駄にしないこと。いつも有益なことに時間を使うこと。無益な行動をすべて
やめること。
7.誠実(sincerity)
騙して人に害を与えないこと。清く正しく思考すること。口にする言葉もまた同じ。
8.正義(justice)
不正なことを行い、あるいは、自分の義務であることをやらないで、他人に損害を
与えないこと。
9.中庸(moderation)
何事も極端でないこと。たとえ相手に不正を受け、激怒するに値すると思っても
我慢したほうがよいときは我慢すること。
10.清潔(cleanliness)
身体、衣服、住居を清潔にし不潔にしないこと。
11.冷静(tranquility)
つまらぬこと、ありがちな事故、避けられない事故などに心を取り乱さないこと。
12.純潔(chastity)
性の営みは、健康のためか、子供をつくるためのみにすること。性におぼれ、なまけ
ものになったり、自分や他人の平和な生活を乱したり、信用を失ったりしないこと。
13.謙譲(humility)
イエスとソクラテスを見習うこと。

東洋人と西洋人の違いは思考の深さに現れる。思考の深さとは多民族国家では法律や
ルールが無ければ秩序が乱れることである。ある程度の単一国家ではルールよりも
道徳や倫理の規範があれば秩序は保たれる。

それぞれが当たり前のことを行って、当たり前の結果を大切にしている。
量の多い少ない、成果の大きい小さい、を気にする民族と、それぞれの背丈に会った
行為があれば許せる民族の違いである。西洋人は目に見える徳を重んじるが、
東洋人は目に見えない徳を大切にする。

「分かっている」ということは言葉に出さなくても「理解している」ということである。
「徳ある人」に人々がつながる道は自然にできて来るのである。
「暗黙知」とは言葉で覚えるのではなく背中で学ぶことである。