お地蔵さんと赤い長靴

 

村はずれの小高い丘に小さなお地蔵さんが置いてありました。

誰が何のためにそのお地蔵さんを置いたのか知る人はいません。
村のお爺さんお婆さんに聞いてもハッキリした事はわかりません。

昔からその場所に座って村を守っていてくれたそうです。

春には頭の上から桜の花が散り、
夏には月見の団子が置かれ、
秋には紅葉した葉っぱが肩に掛り、
冬には寒かろうと赤いチャンチャン子が着せられていました。

一年中村人と一緒に過ごして来たのです。

村で一番小さな女の子ミーちゃんも、小さい頃からお母さんに連れられて、
お地蔵さんの前を通る度に手を合していました。

お母さんから困った時には、
お地蔵さんが助けに来てくれるからしっかり拝むのだよと言われていたのです。

月日が過ぎてそんな小さな村にも大きな事件が起こりました。

村の川を堰き止めてダムを作る話が起きたのです。
下流の街の為に電気を作らなければならないから、
国からダムを作るんだと言われたのだそうです。

河を堰き止めたらミーちゃんの村はダムの底に沈んでしまうのです。

大人達はみんなで反対したのですが聞いてはくれませんでした。

大人達はみんな引越しの準備で大忙しです。
学校も役場も公民館も全部引越しです。

田んぼも畑も小川もみんなダムの底に沈んでしまうのです。

ミーちゃんもお父さんの運転する車に乗せられて、
隣町に引っ越しをして行きました。

そんなある日、大雨が降りだしミーちゃんのお母さんが、
ミーちゃんの長靴を出そうと探したのですがどこにも見当たりません。

おかしいな、買ったばかりの赤い長靴が見つからないのです。

雨はなかなかやみませんでした。
しばらくは、ミーちゃんはお外で遊ぶ事が出来ませんでした。

赤い長靴と一緒に買ったお揃いの赤い傘もとても寂しそうでした。

その頃、街からやって来たダム工事の人たちが大型の機械で村を壊し始めました。

そして村はずれの小高い丘に来た時に、
ふとお地蔵さんの前に、真新しい赤い長靴が置かれているのを見つけたのです。

工事の人達は赤い長靴をみて、
みんなでお地蔵さんをダムに沈まない高台まで運んだそうです。

そして、そっとお地蔵さんの小さな頭に手をやり、
この村の思い出までは壊さないようにするからねと約束をしたそうです。

ミーちゃんのやさしさがお地蔵さんを救ったのです。

2011年3月12日長野県大地震。長野県飯山市西大滝地区の県道沿いにある、
六地蔵のうち固定されていた一体を除く、五体のお地蔵さまが地震後に一斉に向きを変えた。

震源地の栄村方面の東向きに向きを変えてじっと睨みつけていたのです。

被害の無かった飯山市の村人はお地蔵さまに守って頂いたと大喜びをしたそうです。