ミニマリスト
先日お会いした方から私はミニマリストなのですと打ち明けられた。
勿論、言葉は知っているのですが若い人たちの流行だと思っていました。
少しお年を召した素敵な女性だったので意外だなと思いました。
日本人はどちらかというと一カ所一住を希望されている方が
多いので意外だなと思うのです。
その昔、家は長男が継ぐもので、それ以外の子供達は家を出ることが
決まりでした。それでほとんど持ち物がない状態で出るわけですから
自力で家具などを買い揃えなければなりませんでした。
その結果、年配になると家の中には物などが溢れてしまうのです。
私が若い時に住んでいた英国のアパート(フラット)は、家具や食器が
全部揃えてあり自分の身の回りの服だけで、引越ししたその日から
普通の暮らしができます。
今のフランスでも最近ミニマリストが増えたと聞きますが、
これはあくまでも若い世代の節約観念から使われている言葉です。
EUで簡単に海外へ行けるようになり、少ない持ち物で暮らすことが、
普通になり、年間を通じて大好きな服が5~6着あれば済むという感覚です。
本来のミニマリストと少し違います。
日本には昔から伝統的に断捨離があります。不要ものは廃品回収業者に
取りに来てもらい、それを他の人へ譲り再利用してもらっていたのです。
リサイクル、リユース、リデュースは当たり前に行われていました。
日本は戦後世界でも類を見ない勢いで経済大国になりました。
アメリカ型の生活に憧れて家も車も家電も洋服もローンで買い漁ったのです。
GDP世界第2位にまで駆け上り国中が新商品に埋め尽くされてしまいました。
いまやコロナ禍、戦争、自然災害、円安不景気を経験して大量消費の時代が
ようやく終局を迎えようとしています。
安いからといって無駄なものまで買い揃える文化は無くなってきたのです。
ミニマリストとは、『ミニマル(minimal : 最小の)』+
『ist (接尾辞 / 〇〇な人、主義者)』を組み合わせた言葉で、
必要最低限のもので生活する人・ライフスタイルを指します。
2010年前後、大量消費社会への疑問を背景に
海外の富裕層に使われ始め、その後日本にも広まりました。
ミニマリストのゴールは自分の生活に余分なものをそぎ落とすことで、
質の高い生活を送ることにあります。
そのため、主にものを減らすことに焦点が当てられますが、
ものに限らず情報や行動、人間関係に関しても厳選の対象になります。
自分の大切にしている対象のみに時間やお金をかけることで、
心豊かな生活の実現を目指すのが、ミニマリストなのです。
そして断捨離は「物を減らす行為」そのもの
「不要なものを減らす」と聞いて断捨離を思い浮かべる方も
少なくないでしょう。「ものを手放す」という点では共通している
ミニマリストと断捨離ですが、
それぞれの言葉が指している対象が異なります。
断捨離とは、「断(新しいものを断つ)」「捨(不要なものを手放す)」
「離(ものに対する執着をなくす)」の三つを掛け合わせた単語です。
ミニマリストが、ものを厳選して必要最低限のもので暮らすことに
価値を見出している「人・ライフスタイル」を意味するのに対し、
断捨離はものを厳選する段階での「行動・手段」
そのものであるということがわかります。
ミニマリストの対義語:マキシマリスト
ミニマリストの対義語「マキシマリスト(maximalist)」とは、
『マキシム(maxim:最大限の)』+『ist (接尾辞:〜な人、主義者)』を
組み合わせた言葉です。より多くの物に囲まれて生活することに
価値を見出している人、ライフスタイルを意味します。
しかし「マキシマリスト=散らかっている・汚い部屋で暮らしている人」
ではありません。多くの物を所有しながら、いかにまとまった
自分好みの空間に仕上げるかという観点がある人がマキシマリストです。
ミニマリストとマキシマリストは自分の大切なものを大切にする点では
共通でありながら、ものの多さ・少なさやどちらに豊かさを感じるのかで
違いがあります。
昔、読んだ本で感動したことがありました。
中里恒子さんの「時雨の記」という本です。
夫と死別して一人けなげに生きる多江と、実業家の壬生。
四十代の女性と五十代の男の恋は、知人の子息の結婚式で二十年ぶりに
再会したことから始まった。はじめて自分の本音を話せる相手を見つけた男と、
それを受け止めてなお甘えられる男に惹かれて行く女。
人生の秋のさなかで生涯に一度の至純の愛にめぐり逢った二人を描き、
人の幸せとは、人を愛するよろこびとは、を問う香り高い長篇小説。
雅びな恋愛小説を数多く遺した中里恒子の作品です。
このストーリーの中で特に大好きだったのがこの部分です。
「秋風が吹き出しました。夏から秋へ、移るのを待って、多江は、
壬生が、泊りがけで来る日に茶道具をしらべて貰うことにしました。
多江は、壬生にもちものをさらけ出すことで、自分の生涯、
身の上の説明にはなるだろうかと考えました。金目のものはないのです。
好みのものを見てもらうつもりでした。
「がらくたも出しておきました、あやしいのは、この際処分したいので」
「そうね、ぼつぼつ探してあげるから、つまらぬものは、捨てるんだね」
死をまじかに控えた壬生の最後の思いやり
「好きな女性には本物だけを残して欲しい」つまらぬものまでとっておく必要は無い。」
子どもは欲しいものを手に入れるが、大人は必要なものしか手に入れない。
今の時代だからこそ「自分に不必要なもの」まで側におくのはやめましょう。