人が育つ方法論




「木のいのち・木のこころ」
西岡常一・小川三夫・塩野米松(著作)

最後の宮大工西岡常一さんの職人の育て方には感動した。
私が一番感動した言葉は「宮大工なんて仕事は頻繁に来るわけでは
無いので、見習いの時には畑仕事をさせて自分の食い物は
自分で作れとおしえた。」
それに耐えて工房に残る弟子は忠実にいうことを聞くが、
すぐにやめる子はなんだかんだ理屈を言ってくる子です。

この本を読んで「暗黙知」という言葉が浮かんだ。
親方の仕事をみて、また道具を手入れさせてもらって、
指導の言葉ではなく背中でみて覚えることを「暗黙知」というのです。
言語化できない知識の事です。
これは弟子の感性を磨く訓練にもなります。

素直な弟子はその内に親方や兄弟子の道具の手入れを任されて
様々な道具から、自然に職人の癖や仕事の仕方を覚えていくのです。
同時に作業場で親方や兄弟子の背中を見ながら覚える
「暗黙知」が養われていくのです。

人は木と同じ。型にはめない。癖を見抜く。
西岡家は歴代法隆寺専属の宮大工であった。最後の棟梁と呼ばれた
西岡常一氏は,法隆寺や法輪寺の補修,薬師寺再建に尽力をされた方。
祖父から技術を学び,大工として技術一筋で生きてきた。

教え方としては「技術を丸暗記したほうが早く、
世話はないんですが、
なぜと考える人を育てるほうが大工としてはいいんです。
丸暗記してもろうても後がありませんわな。
面倒でも各時代の木割りがなぜ違っているのかを考え、
極めるには大変な時間と労力がいりますが、
後で自分流の木割りができますのや。
そうして初めて本当の宮大工といわれるようになるんですな。」

丸暗記するだけでは新しいものに向かっていけません。
ですから物覚えがいいということだけでは,
その人をうまく育てたことにはなりません。

丸暗記には根がありませんのや。根がちゃんとしてなくては
木は育ちませんな。根さえしっかりしていたら、
そこが岩山だろうが、風の強いところだろうが、
やっていけますわ。
なんでも木にたとえてしまいますが、人でも木でも
育てるということは似ているんでしょうな。 

ただ、育て方にも棟梁の形がありますな。全部,無理矢理、
自分がしたようにせなならんというて、
それに押し込もうとする人もあるでしょうが、それは無理ですな。
木の使い方と同じように癖を見抜いて、その人のいいところを
伸ばそうとしてやらななりませんわな。
育てるということは型に押し込むのやなく、
個性を伸ばしてやることでしょう。
それには急いだらあきませんな。

人を育てるっていうのは「場」を与えて
その環境に置いてやればいいとわかっているけど,
なかなか難しいものです。

暗黙知によってより良い社会を実現できるとはいえ、
実は「暗黙知の次元」は、暗黙知を説明するために書かれた本
というよりも、暗黙知の持つポテンシャルを開花させることによって、
よりよい社会をつくりたいと思うマイケル・ポランニーの
希望の書なのである。

「この二、三千年で、人類は、暗黙知の能力に言語と書物に
文化機構を装備させて理解=包括の範囲を桁外れに拡げてきた。
こうした文化的環境に浸りながら、いま私たちは、その範囲が著しく
拡張した「潜在的思考」に反応しているのだ」
 
暗黙知によって開かれる思考が、新しい社会と倫理を展望する。
より高次の意味を志向する人間の隠された意志、
そして社会への希望に貫かれた書」AIなどの技術が進化し、
それを人間が上手に使うことで「探究者の社会」に入りつつある。
常に「新しい意味」を模索しながら積み重ねることである。
今こそ、読むにふさわしい希望の書である。
「暗黙知」の解説より引用

私がプロデューサー業を始めた時に日本にはお手本はなかった。
強いて言えばCBSSONYに入った時に見たスタジオの仕事である。
アーティストがいてアレンジャーがいてスタジオミュージシャンがいて、
それを手配するインペッグ屋がいてチームが動いていた。

普通の歌手の場合は事務所手配の作詞家がいて作曲家がいて
編曲者がいて、最初からワンセットであった。
レコード会社のディレクターはレコード会社の社員であり、
音源を作り、工場へ送り、レコード盤を作る、各種手配の担当であった。
それを見よう見まねで覚えたのです。

私は英国で手に入れた海外のプロデューサー情報を
お手本にして新人の発掘から育成、制作、宣伝、営業と
全部をこなした。テレビ局も、ラジオ局も、雑誌社も、
代理店も勝手にプロデューサーを名乗って駆け回った。
新人アーティストの売り込みもさることながら、
私もプロデューサーとして売り込んだのです。

音楽ビジネスの世界でもプロデューサーは
まだ新しい職業であったことは確かである。
先日亡くなったビートルズのプロデューサー、ジョージ・マーティンの
回顧録を読んでこの情報が40年前にあったらと悔しく思った。

「我々は現代音楽界を代表する真の創造者に対して敬意を表したいと思う」

みなさまはみなさまなりに様々な育て方の方法を活用してください。
人を育てるという事は自分を育てることかもしれませんね。
そして自分の成長に終わりはありません。