本当の貧しさ

 

ロスアンジェルスに住んでいる友人の話です。

離婚したイギリス人の奥さんから、
経済的な事情で子供を手放すという連絡が入りました。

親権争いで奪い取った子供を施設に預けると言う事です。

友人は急遽、離婚した妻と子供が住む英国に行かなければなりません。
しかしその頃の友人は、新しい奥さんとの約束で、
お金の管理を全て弁護士に任せていました。

その為に自由に使えるお金が無くチケットを買う事も出来ません。

急いで自分の友達や身内から借りたのですが英国までの旅費にもなりませんでした。

仕方なく友人は街頭で絵を描いて売る事にしました。
彼は画家です。

大きなエージェントとの契約があり、
自分の契約した絵を勝手に売る事は出来ないのです。

友人は名前を伏せて街頭で数枚の絵を描いて売りました。

そうしてどうにか、旅費と手続き費用の用意が出来たので
英国に向かう事にしました。

無事に英国に着いたのですが、
もう子供は既に養護施設に預けられていたのです。

弁護士と相談をして元妻の親権放棄の手続きをしなければなりません。

少ない時間の中で全てを終了させなければならなかったのです。
所持金もほとんどありません。

航空券は格安チケットなので指定された日には帰国しなければなりません。

毎日が時間との戦いだったそうです。

ようやく無事に子供を取り戻す事が出来て米国大使館に行き、
この子が自分の子供だという証明を取らなければなりません。

それから大使館との手続きが済んで、パスポートを手にして飛行場に向かったのです。

しかし最終便の米国ロスアンジェルス行きは満席で席がありません。

この便で帰国しなければチケットが無駄になってしまうのです。

彼は搭乗手続き中の乗客に「どなたか席を譲っていただけませんか」と
大きな声で何度も御願いしました。

航空会社のスタッフも事情を理解して、
一緒に声を掛けてくれたのですが、誰も譲ってくれる人は現れません。

彼は最後の望みを託して「アメリカにはヒーローが居ると聞いています」
「誰か助けてくれませんか」と叫んだのです。

その時、一人の少年が「僕のチケットを譲ってあげるよ」と差し出してくれたそうです。

「僕は明日帰っても大丈夫だから」構わないよ。

そのやり取りを見ていた周囲の大人達も、それに感動して
「私達夫婦のチケットを譲ってあげるよ」「私も急ぎじゃないから良いですよ」と
次々に申し出てくれたのです。

その中の親切な老夫婦のチケットを譲り受けて、
私の友人は子供を抱きかかえ、泣きながら搭乗口へと向ったそうです。

友人は愛する子供を取り戻す事に必死でした。

そして最悪の状況の中で、最後まで諦めずに、最善を尽くしたのです。
そして奇跡を手に入れたのです。

その後友人から直接この話を聞く機会があり、
彼から素晴らしい言葉を聞く事が出来ました。

それは今回の件で「お金の貧しさより心の貧しさが一番貧乏だ」と言う事を学んだ。
アメリカではお金が一番大切です。

外国から来た我々を守ってくれるのはお金しかないのです。

それでも「心が貧しくならないように」生きて行く自信を持ちました。

そう語る友人の目にも、私の目にも、大粒の涙があふれていました。

改めて人として大切な「思いやり」を感じる事が出来たからです。

本当の豊かさは「心が貧しくない人」にしか与えられないものです。