ペースと間合い
誰にでも自分なりのペース(速度)がある。
行動に出る時にも引く時にも自分の心の指示に従う。
子供の時から親に決められた時間に学校に行き、
学校から決められた時間に下校する。
塾に行く時間も、宿題する時間も、食事をする時間も
毎日同じ時間である。
私はこれらに抵抗しながら生きてきた。
クラブ活動で運動や軽音楽の練習に行っても
自分のペースが掴めない。
ペースが掴めないから除け者になってしまう。
何故自分のペースで生きることができないか不思議だった。
とにかく子供の時から強制的な時間割が苦手であった。
時間割と共に一方的に指示されるのもとても苦手だった。
周りからわがままな奴と思われても仕方ないと思った。
それを指摘する親兄弟も居なかった。
しかし、いつも時間でコントロールするのは
大人(教師&学校)たちの勝手な都合だ。
子供達はコントロールしやすいから、
校則に従わせて一律に同じ子供にする。
子供の自由な発想や行動は無視される。
本当にこれで良いのだろうか?
社会では下から上へいつも同じエスカレーターに乗り込み、
押し出さられるようにして次の人へ場所を明け渡す。
上に上がれば幸福な生活が待っていると嘘をつかれるが、
こんな場所に自分の居場所は見つからない。
江戸時代は大店の商人も文化人も職人も
自分の心(ペース)に従って成功した人が多い。
我儘(わがまま)ではなく拘(こだわ)りなのである。
日本が世界から驚かれたのは無から有を生む想像力の高さである。
代表格は葛飾北斎である。浮世絵のお手本が無い時代に
自からがお手本になった。
北斎は世界中の画家に影響を与えた天才浮世絵師である。
そして現在のアニメや漫画は北斎漫画から始まったのである。
多くの職人は誰に指示をされなくても自分自身の経験と学びで
技術向上に励んだ。そして何よりも極めるための勤勉さである。
私の知る限りでは損得なしに自己実現のために名工を訪ね歩き、
何日も眠らないで仕事をする国民は日本人だけであると思う。
そしてあらゆる物事を決断する時に必要なことは間合い(距離感)である。
知り得た情報をいち早く使う時にも間合いが無ければならない。
今なのか早すぎるのか判断を間違うと大きなリスクにつながる。
人間関係に特に敏感にならなければ利益の負けを生じる。
ビジネス全般に言えることは市場におけるライバルや
競合他社との間合いを話し合う必要がある。
例えば米不足の時に米を買い漁れば莫大な資金が必要であり、
資金が底をつけば安値で売りに出すしかない。
他社がそこを買い占めるのも間合いの技である。
大切なことは自分の間合いで決断したことを後悔しないことである。
おおよそ人の考えていることは皆同じで駆け引きの問題である。
何事にも勝負に出る間合いは駆け引きの基本である。
この間合いの定義は宮本武蔵「五輪書」を読めば理解ができる。
地之巻には、
宮本武蔵が考え出したとされる兵法が記されており、
勝利に到達するための原理原則がまとめられています。
武蔵はまず、その地之巻の冒頭で、文武両道を説いています。
学問と武芸、両方を磨きなさい、ということです。
その真に意味するところは、あらゆる状況に応えることができるよう、
いかなる状況においても最善の選択をできるよう、
多方面から準備をしておくということにあります。
武器一つとっても、刀のみならず、槍や弓や銃も理解しておくべきだし、
それぞれがどんな場面で最も力を発揮するのか、ということも理解して
おくべきだと説いています。
水之巻には、
武蔵が編み出した流派、二天一流における戦いへの構えが、
身体面そして精神面から書かれています。
構え、という型に、はまったものを、形がない水で表現する点、
武蔵の考え方が現れています。
ものの見方には二種類あり、一つは「見の目=目を開いて目に映るものを
現象として見ること」で、もう一つは「観の目=現象として見えるものの
裏側にある本質や相手の心を見ること」です。
本番においては、見の目よりも観の目のほうが重要だと武蔵は考えています。
そのために、ひたすら目の鍛錬と工夫を怠らないように、と説いています。
火之巻には、
戦いにおける戦術・戦略に関する武蔵の考え方がいくつか
記されています。
・場所次第といふこと
まず武蔵は戦いにおける場所選びの重要性を説いています。
相手に不利で自分に有利なポジショニングをとる、ということです。
剣を交える場においては、太陽あるいは火などを自分の背後あるいは右脇に
置くように立ち回るように、あるいは自分の左側は大きく開けて右側は
壁などに沿った位置が好ましい、という具体的な示唆がありますが、要は、
戦う前からポジショニングで相手より有利な状況を獲得せよ、ということです。
風の巻には、
ここには、武蔵による他の剣術流派についての批判が
書かれています。形や見た目にばかりこだわってはいけない、実戦で
使えなければ意味がない、という武蔵の考え方が多くみられます。
達人の域に達するには神秘的なものに頼るのではなく、合理的な方法の
積み重ねでしか到達できない、と説いています。
空の巻には、
武蔵は、剣を極めることで自分が達した境地を「空(くう)」
と表現しています。空とは、定まった形のないこと、
いや、そもそも形を知ることができないものです。
何かを会得するために鍛錬を積み、極めた先に、実は何もないことを
知るのだ、という逆説的な考え方が展開されています。
その時、一切の迷いの雲が晴れ、空の状態に達する、とされています。
そこに、何にもとらわれない無限の広がりを強く感じるだろう、
と武蔵は説いています。
この「五輪書」から受け取った学びにより、
自分のペース(速度)と間合い(距離)はいかに重要か
お分かりになりましたでしょうか?
思考を論理的にしてしまうとどうしてもペースがつかめません。
そして利益を中心にしてしまうと間合いが短くなります。
自分の人生ですから自分のペースと間合いで過ごしてください。
今日も自分のペースと間合いで一日を過ごしたいと思います。