船のバランス




中国に「呉越同舟」という諺があります。
敵国同士の呉の国の兵士と越の国の兵士がたまたま同じ船に乗り合わせました。
しかし目的地に着くまでは敵同士でも、この船の中では助け合いながら
過ごしましょうという意味です。

日本人の根幹にある精神は「和を以て貴しとなす」です。
大変な時にはみんなで仲良く乗り越えましょうということです。
自然災害の被災地で列をなして順番を待つ姿に世界が驚きます。
誰もがいち早く水にも食料にもありつきたいと思うところでも
日本人は老若男女が整然と列を作るのです。
「和を以て・・・」とは年齢も地位も気にせずに話し合って
ものごとを解決するのが良いとする考えです。

どんな時にも意見は二つに分かれて当然です。
一方を応援して他方を批判するとそのバランスは崩れます。
これは「清濁併せ持つ」にも該当します。
常識で決められた正しさだけを主張するとそれ以外は全て悪になります。
間違っているかなと思う意見も取り入れてバランスを取るのです。

綱引きの綱も引っ張るばかりではなく手を緩めることが大切です。
これも中国の諺に「雑乱紛糾のときには控捲せず」というのがあります。
問題が起きた時には主張するだけでなくときには相手の意見も聞き入れろ。
お互いが引っ張ってばかりいたらいつまでたっても解決しないだろう。
ここもバランス感覚が重要だと言っているのです。

右寄りが正しいとする右翼の意見と左寄りが正しいとする
左翼の意見があります。これを時の権力者が力を持って片方に加担すると
必ず争いが起こります。
これは正しいか間違っているかの判断ではなく、一方的にコントロール
しようとすると共産主義の様に権力者の考え一つで決まります。
このような国では国民は国政に反対意見を言えば死刑を言い渡されてしまいます。

現在、世界の悪のリーダーとしてロシアのプーチンや北朝鮮の金正恩が
代表格です。最近ではイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフも加わりました。
今までは世界の警察官と言われた正義のアメリカが真っ向から立ち向かい
国家間問題のバランスの調整をして来ました。
しかし、今はトランプのいうように「America is No 1」と自国の繁栄だけで
良いとする考えが出て来て戦争の仲介には入らない政策をとっています。

アメリカのロースクールでの話です。
授業中に教授が一人の生徒をわけもなく批判します。
挙げ句の果てには私の講義には二度と参加するなと教授は言い放ちます。
そしてその女子生徒は唖然としながら教室から
出て行き授業は再開します。

すると教授は残った生徒に「何のための法律」かと聞いていきます。
個人の為に、社会の為に、国家の為にとそれぞれが答えて行きます。
最後に一人の生徒が「正義」の為と答えました。
教授はそうその通り「正義」なのですと答えた。
しかし何故いまの私の理不尽な行動に対して誰も文句を言わなかった
のかと問いただします。

明らかに理由もなく女子生徒を追い出した時にみんなの中に
「正義」は起こらなかったのか?それで法律を学んで何をするつもりなのか?
生徒たちはその言葉に驚きながらも恥ずかしさのあまり下を向いたのです。
この事はとても大切で「建前での知識」と「行動に移る知識」のバランスが
取れていないということです。

中国の陽明学のなかに「知行合一」という
言葉があります。知識は常に行動と共にあるという意味です。
学んだ時から行動に移すのが正しいという事です。

バランスを正しく保つには嫌いな者の存在を否定しないことです。
私は10人のメンバーのプロジェクトを作る際に8人の賛同者と
2人の非賛同者を加えます。
好きな意見も嫌いな意見も同時に聞くことが大切です。

この世界にはたくさんの人が住んでいます。
好きな人たちとだけ付き合うことは無理なのです。
意見の合わない人たちとも暮らしていかなければならないのです。
そして忘れてならないのが自然界の動物たちの存在です。
人間とのバランスを取りながら生きて来た動物たちを、
単に危険だから襲うから怖いからと言って殺傷してきた歴史です。
その為に年々数多くの動物が地球上から消えていくのです。

その上に環境破壊を繰り返して自然とのバランスを取らなかった
ツケが現れています。突然のゲリラ豪雨、巨大なハリケーン、地滑りと
各地で甚大な被害を残しながら人間に襲いかかる。
それを誰も止めようとしない。
京都議定書で取り決められたことが守られていません。

2019年9月26日ニューヨークで開かれた「温暖化対策サミット」。
ここでスピーチした一人の少女に世界の注目が集まりました。
スウェーデンのグレタ・トゥーンベリさん(16)。
気候変動が緊急事態にあると訴えるグレタさんは、毎週金曜日に学校を
休んでストライキを続け、大人たちに本気の対策を要求。
世界中の若者たちを動かし、賛同の波が広がっている。

グレタ・トゥーンベリさんはサミットに集まった世界の要人を前に
「あなた方は、自分の子どもたちを愛していると言いながら、
その目の前で子どもたちの未来を奪っています。」
16才の少女が訴える温暖化非常事態のスピーチ映像を
見た方も多いと思います。堂々とした表情で論理的に話す姿に参加者の
感動の拍手が鳴りやみませんでした・

また芸術におけるバランスとは視覚と思考の中で行われる。
私は均整のとれた作品より均衡を少し壊したバランスの
良い作品が好きです。カンディンスキーの作品群「印象Ⅲコンサート)と
対峙して抱いた最初の印象は、「自由な生命力」とも呼べる、
のびのびとした躍動感です。
ステージ上のピアノや会場の観客の熱気が目に浮かぶように伝わります。

ひとつひとつの作品が、ユニークに、賑やかに自己主張して、
その有り様はまるで音楽のようでもあり、作品に囲まれていることが
心地よくもある。色彩が発する鮮やかな光と、静かな影が形成する
有機的なコントラストのせいで、作品そのものが常に音が聞こえているような
不思議な錯覚を覚えました。

「抽象芸術」は見ている人の思考を受け入れてくれます。
10人いれば10通りの思いで見ることが出来ます。
「写実芸術」は視覚的に見て納得は出来ますが感心するだけに
終わることが多いと思います。

バランスとは予定調和ではない不自然な和音から出来ています。
雅楽から派生した能楽のお囃子の基本は「序・破・急」の流れで出来ています。
始まりはバラバラで、少しまとめて、終盤で急ぎながら合わせる、
この流れがあって能楽師の演技と観客のバランスが整うのです。
伝統芸術は心の芸術でもあります。
このような形で世界がまわることを願っています。

生きていく上では心と身体のバランスが一番大切です。
心は常に押さえつけるのではなく解放してあげることが大切です。
あなたもあなたなりの自由なバランスを見つけてください。
他人に合わせる必要は無いのです。