愛こそすべて




イタリアのファッションメーカーブルネロ・クチネリ。
オーナーの経営に対するフィロソフィーが紹介されている。
高級生地を使いスタイリッシュな洋服が生産されても、
大切なことは羊を飼育している人も、それを糸に紡ぐ人も、
工場で縫製に関わる人も、店頭で販売する人も、中心にあるのは、
「愛こそすべて」の理念を共通の価値観として保有していることです。

世界各地で続く戦争や紛争、実生活にも影響を及ぼしている
気候変動やインフレーションなどにより、混乱著しい世界情勢。
では、そんな現代にあって、ファッション業界における存在感が
より際立っているのがブルネロ クチネリである。
独立企業としての体制を保ち、他と一線を画す人間性重視の企業姿勢と
モノづくりがグローバルな成功を収めているのだ。

そしてブルネロ・クチネリの語るヒューマニズムや愛の大切さが、
業界の垣根を超えて今、大きな反響を呼んでいる。

「私たちの企業活動、あるいは私自身の人生における基本的な動機づけ
となっているものは、すべて愛してやまないイタリアのルネサンスに
よって育まれたといえます。それは素晴らしい人文主義に基づいた、
伝統的な芸術や卓越した文学、そして私たちが誇る“美しい国”をかたちづくった、
尊敬に値する職人の創造性です。今も世界の人々を魅了する、

イタリアの天才たちが生み出したそれらが示すのは、
すべての仕事は倫理的な労働によって成され、
あらゆるものの尊厳を尊重しながら、きちんとした製品が製造されるべき
ということ。そして、そのためには「愛」が不可欠ということです。
それはいわば“サステナブルなヒューマニティ”であり、
“人間主義的資本主義”と名付けた私の哲学なのです」

人々が求める愛ある服の証し
世界中で進む核家族化やITの進化によるコミュニケーションの
変容により、家族間をはじめとした人間関係の希薄化が懸念されている
現在。そうした社会情勢にパンデミックや戦争が追い打ちをかけ、
人心の荒廃やヒューマニズムへの無関心が懸念されている。
その根本にあるのは、家族愛や人間愛、つまり愛の欠落ではないだろうか。
そうした社会にあって、人間性重視の企業姿勢を貫くブルネロ クチネリの
服が求められ、企業や教育機関がクチネリの言葉を聞きたがるのは、
そこに本物の愛を感じるからではないだろうか。

「今、私たちがインスピレーションを得ているのは、
新しいサステナブルなヒューマニズムであり、人間中心の資本主義です。
それと同時に、人文主義の偉大なる師たちが、時を超えて
私たちに与えてくれた助言、イタリア・ルネサンスが育んだ人間の尊厳を
大切にする文化なのです。

その代表が、ルネサンス期の人文学者ジョヴァンニ・ピコ・デッラ・
ミランドラの著書『人間の尊厳について』です。
同書はまさにルネサンスのマニフェストと言うにふさわしい、
すべての学校で読み直すべき名著といえるでしょう。

私たちも、世界の美をひととき守る守護者として、謙虚な人間が生み出す
美しい文化のために、服を通して人間性や愛を伝えられれば
幸いと改めて思っています」

“欲望の世紀”といわれた二十世紀が幕を閉じ、
早くも20年以上が経過した現在。
世界各国で経済格差が拡大を続け、強欲な資本主義の問題点が
指摘されている。
そんな現代社会で評価されるブルネロ クチネリの服、
そしてその背景にあるヒューマニズムと博愛精神は、
新時代の資本主義が向かうべき道を指し示しているといえそうだ。

家族愛を重視する国イタリア。ブルネロ・クチネリの基盤も
拠点のソロメオでともに暮らす家族だ。

日本の各地にある職人たちの暮らしも同じようなものである。
伝統を引き継ぐというのは大変な作業であるが、そこに愛が無ければ続かない。

私が昨年まで顧問をしていた株式会社カインドウェアは創業128年の
宮内庁御用達のフォーマルウェアの会社である。
その製品を扱うのが栃木県那須にある自社工場である。
夢工房と名付けられて地元に住んでいる人たちの協力のもとに
伝統が引き続けられている。工場の真ん中に託児所があり働きやすい
環境を最初に取り入れられた縫製工場として注目されていた。

1973年設立以来、宮内庁御用達の儀礼服の生産から始まり、
高度な技術を要するタキシードやモーニングの縫製技術を備えた工場に
発展しました。設立当時カインドウェアが英国王室御用達のハンツマンと
技術提携を結んでいたことにより、縫製技術と礼装の近代化を取り入れていました。
さらに1985年に来日した元ラルフ・ローレン ボストン生産工場社長の
レオ・ロッジ氏から学んだイタリアのレディメイドスーツの縫製工法を
ベースに、上質で着心地の良いスーツを日々生み出しています。

洋服は第二の皮膚と表現します。そこに愛が無ければただの布切れです。
社交文化は洋服から生まれたと言っても過言ではないと思います。

良い服は何世代にわたっても引き継がれて着ることが出来ます。
皆様も愛ある洋服に出会いますように祈ります。