伝えると伝わる




「恩学」で伝えたいことが違った意味で伝わることがあります。
これは人それぞれの経験と認識で独自の判断をするからです。
人は読んだものを自分の知識で読んでいるということです。
文字を見て独自の解釈をしてしまうのです。
そして学んだ文言を自分なりの解釈を加えて混乱することもあります。

日常我々が記憶している言葉にも誤解していることがあります。

「情けは人の為ならず」
「情けは人のためならず」とは、よく耳にする諺でありますが、
よく意味を勘違いしている人が多い諺としても知られています。 
「情けをかけることは、結局その人のためにならないので、すべきではない」という
解釈と「情けは人のためではなく、いずれ巡って自分に恩恵が返ってくるのだから、
誰にでも親切にせよ」という全く正反対の2つの解釈が成り立つというのです。

人に情けをかけるのに「子孫のためと思ってしなさい」というのは、
すぐに「見返りを求めてはいけない」という白隠禅師の思いが込められて
いるのではないでしょうか。

情けをかけることを仏教の用語に置き換えるとするならば、
「布施(ふせ)」という言葉が適当ではないかと思います。
「布施」というとお坊さんへの御礼のことだと思われるかもしれませんが、
大乗仏教の修行徳目の1つで「施し与える」ことを表わしています。

この布施で最も優れているのは「三輪空寂(さんりんくうじゃく)」といって、
施す者も、施しを受ける者も、施される物に対しても、
何の執着もないのが理想だとされています。
「見返りを求める心」が少しでも残っていると「恩を仇で返された」とか
「恩知らず」などと「恩着せがましい心」を生じかねないからです。

「施し」は上から目線で与えるという意味で、「寄付」は貰っていただくという意味です。
マザーテレサは大金持ちが大金を施すのと、

貧しい家庭の子が自分のパンの半分を差し出す寄付の行為では、

寄付の行為こそ価値があると言っています。

白隠禅師が22歳の頃、伊予松山の正宗寺において逸禅和尚の下で修行していた
時の出来事です。 
ある日、松山藩の家臣から正宗寺に優秀な修行僧がいるということで、
白隠も含めて5人の修行僧がお斎に招かれました。

互いに挨拶をすませると、主人は数十本の掛け軸を出してみせました。
その中に錦の袋に包まれ、二重箱に入った一軸が皆なの目にとまります。
恐る恐る開けて拝見すると、あまり見栄えのしない軸でありました。

白隠はがっかりしながらも、よくよく見てみると、それは高名な禅僧、
大愚宗築(たいぐそうちく)によって書かれたものでありました。 
あまり上手な筆跡ではなく、文句もありきたりであるにもかかわらず、
このように尊重されるのは、すべて大愚和尚の人徳であり、人間性である。

それが優れているからこそ、このように大切に秘蔵されてきたのであろう。
人が尊ぶものは大愚和尚の徳そのものであって、決して筆跡の良し悪しや
理屈ではないと白隠はその時に悟り、一層修行に努めたといわれています。

世の中には偉人や成功者はたくさんいます。
しかし、本当にその実績があったかは知る由もありません。
噂だけで立派だと聞いても何も伝わりません。

世界的な有名なブランド品はそれなりの歴史と信頼があって評価されています。
エルメスもルイヴィトンもシャネルも名前だけで伝わるものがあります。
しかし本物かコピーかを見分ける術を知らなければただの高い商品です。

文章にしても言葉にしても伝える側と受け取り側が正しい理解が必要です。
海外に行けばなおさらです。その国の言葉の「持つ意味」が違うのです。
正しい知識は正しい伝え方で行わなければなりません。

伝えるための「説得の三要素」とは、古代ギリシャの哲学者である
アリストテレスが提唱した人を説得する為の3つの要素のことです。

彼は、「人が説得されるためには、ロゴス・パトス・エトスの3つの要素が
揃っていなければならない」、と唱えました。
ロゴス(LOGOS)とは論理的アピール、パトス(PATHOS)とは、情緒的アピール、
エトス(ETHOS)とは倫理的アピールのことです。
簡単に言うと、上記のような3つの要素を持っていると人を説得しやすいということです。

みなさんも経験があると思いますが、「人として非常に信頼できる人」と
「なんとなく信頼できない人」が、まったく同じ内容のことを話していた場合、
前者の方により耳を傾けたくなってしまいますよね。

人柄による信頼は、「人間的な魅力」が源泉です。
様々な要素がありますが、共通点もあります。
例えば、このような特徴を持っている人は信頼される傾向にあります。

① 相手の意見や価値観を否定せず、受容力がある
➁ ミスをしても他責せず、謝罪できる
③ 損得に関わらず、他人のために行動できる
④ 口先だけでなく、きちんと約束を守る
⑤ 勇気と責任感がある

説得力とは、「相手を納得させる力」や「相手の心を動かす力」「行動につなげる力」
と言い換えることもできます。
説得力がある人には、大きく2つの特徴があります。

① 「話の中身そのもの」に説得力がある
➁ 「話し手の振る舞いや、醸し出す雰囲気」に説得力がある

この2つがきちんとおさえられていると説得力はぐんと増します。
説得力のある話は、論理展開が明確です。

ある主張をするためには、必ず「なぜそう言えるのか」という根拠も
セットで必要となります。

根拠は、推測ではなく「事実に基づいたもの」であることがポイントです。
そして、事実は多角的な視点でみなければなりません。
ある特定の偏った事実を取り上げただけでは、信ぴょう性が低くなるためです。

「説得力」については多くのビジネス書に書かれています。
私が大切にしているのは「理解力」です。

① 話す相手のことをどれほど理解しているか?
➁ 話す相手の言葉をどれほど信じているか?が重要です。

その為には知識と経験がなければ理解も出来ません。
多くの書物を読み、多くの登壇者の発言に耳を傾け、のちに書きおこし、声に出します。
自分が理解できていなければ他人に伝えると誤解が生まれます。
伝える前に受け取り側の状況を把握して話をするとスムーズに伝えることが出来ます。

You tubeの中には多くの討論会や対談のプログラムがあります。
それを見て「理解力」を深めることも可能です。
おすすめは「TED Talks」です。世界中のリーダーが登壇しています。

伝える説得力、伝わる理解力が二つ合わさり、自分なりの納得が生まれます。
私の文章は正しく理解されているのでしょうか?