感動を作る




以前、演劇集団の役者さんから感動とは何ですかという質問がありました。
個々の感性が揺れ動くことを「感動」と言います。
相手が送る演技や音に自分が反応してドキッとすることです。
それは無意識に心の中で求めていた感情が目の前に現れた時に高揚する感覚です。

本居宣長が感動は「もののあはれを知る」と言っています。
人は嬉しいときや悲しいときに、心が揺れ動きます。その心が感極まった時には、
「あぁ」というため息が漏れます。この「あぁ」が「あはれ」です。
「あはれ」というのは、もと、見るもの聞くもの触る事に、心が感じて出る
歎息(なげき)の声にて、今の俗言で(ゆおのことば)にも、「ああ」といひ、
「はれ」といふ、これなり」つまり「人間の心の動きを感じる、知る」という
意味になります。と書かれていました。

また「啐啄同時」(そったくどうじ)という言葉があります。
親鳥が卵の中の雛鳥にもうそろそろ出ておいでの合図で殻の一部を叩きます。
雛鳥もそれに合わせて内側から同じ箇所を口ばしで突きます。
2匹の呼吸と求める気持ちが合わなければ産まれることはないのです。
それと同じように送り手と受け手が同じ呼吸になる時に感動が起こるのです。

「とんとんとんとん」と送り手が殻をたたけば、受け手の人たちも

「とんとんとんとん」と返して大きな感動を味わっていくのです。

あなたはどのような場面で感動しますか?
①素晴らしい音楽を聴いた時
➁素晴らしいお芝居を見た時
③素晴らしい景色を見た時
④生き別れた家族が出会う場面を見た時
⑤小さな動物が車に撥ねられそれを助けた人を見た時
⑥爆撃後の瓦礫の中でピアノを弾いているアーティストを見た時
人それぞれですがきっとあなたの前世の記憶が反応したのだと思います。

舞台の上で感性を鍛える方法があります。
それは送り手も受けても同じです。

<イメージの世界をより具体的に想像することが出来るか?>
①空気をつかむ(周りの気持ちを理解する)
➁状況を把握する(今の反応を見る)
③方向性を決める(やり方の決断)
④直感が出せるか(先を予測する)
そして<歓喜の場面が見えるか>のイメージトレーニングが必要になる。
これらを具体的にメモに残して自分流の感性を作るのです。

直感を鍛えるにはどうすれば良いのか?
私は他のプロデューサーより圧倒的に情報量があった。
どんな時にも時間を見つけては必ず行くところがある。
本屋と映画館とレストランである。

①本屋で山積みの本を手当たり次第に購入して読んだ。
➁話題になっている映画は必ず見た。
③現在活躍している人には出来る限り会った。
④トレンドスポットになっているレストランへ通った。
⑤大事な情報を確かめるために国内外を問わず出かけて目で確かめた。

直感は情報の中から生まれることを誰も知らない。
直感は思いつきではないのに感性を頼りにしてしまう。
感性は育った環境で育まれることが多く、好き嫌いに起因している場合が多い。
その為に、真逆の人たちからは敬遠される。
ヒットプロデューサーになるためには直観を鍛えなければならない。
その為には真実の情報量を貯めこまなければなりません。

バランス感覚を鍛える。
陰陽、清濁、正悪などの二面性がある方がダイナミックに表現することが出来る。
欠点は悪いものだと決めつけて、欠点を取り除こうとして「常識」という除草剤を使う。
欠点も長所を補う必要があるために取り除く必要はないのである。
世の中の間違いは欠点を全て取り除くことを「進化」と勘違いしていることである。
人間の感情を狭めることは人間性の「退化」であり進化とは言わない。

歌舞伎や能楽や雅楽などの演奏に使われる手法「序破急」があります。
スタートは、ばらばらに始まり、徐々に音が合い、勢いが出てきて最後に音がまとまる。
この流れコンピューターには絶対作れない演奏家同士のバランス感覚と呼吸感である。

世界中の民族音楽を現地で聴くとほとんどが「序破急」の流れになっている。
おおむね演奏は、伴奏楽器から始まり、打楽器が加わり、弦楽器も加わり、
声が(奇声)加わり、神がかり的な恍惚感で絶頂を迎えます。

好きを整理する。
アーティストを好きになるけれど盲目の恋では意味がない。
欠点をとらえて長所を伸ばすには冷めていた方が良いからである。
舞台も理想(好き)の舞台を描くが予算の都合で叶わなかった場合には、
次のためにデーターにして心に留め置いておく。
いつでも悔しさは次の好きをやるバネとして捉えれば良いのである。

惚れた人の前では周りが見えなくなると言われます。
プロデューサーはどのような場合にも周りを見る必要があるのです。
惚れることを客観的に判断できなければ一流にはなれないのです。

感動を作るには、「情報量」と「経験」と「察知力」と瞬時の「表現力」が必要です。
それ以上に日ごろから「人間力」を鍛えて感情の機微を捉える力が必要です。
雨の日は雨の表現が、晴れの日には晴れの表現が、悲しい時には悲しい表現が
嬉しい時には嬉しい表現が、苛立つときには苛立つ表現が出せるかです。
そして良い意味での「裏切り」がプロの仕事です。
これだからこうだろうと思っている予定調和のときに、まったく違う表現を
出すことにより大きな感動が生まれることを知るべきです。

『感じる心が正常に機能していれば、人間は人として誤った方向には傾かない』
『ピカソのように、歳をとってもどんどんスタイルを変えながら生涯現役であることは、

作家としての一つの理想』ワクワクドキドキしながら生き抜くことです。

先ずは日常の生活から感動を見つけてください。
そして感動を作るタイミングを図ってください。
感動を出し惜しみしないで他人に伝えてください。
感動に敏感になると世界が違って見えます。