~下載清風~




倒れたら倒れたなりに咲かせる花がある ~下載清風~

禅の言葉に「下載清風」(あさいのせいふう)という教えがあります。
今にも沈みそうなほど荷物を載せた船は重々しく、
思うように前に進むことができません。
重荷を港に下ろして軽くなった船は、追い風を帆に受けて前に進みます。

夏が過ぎお彼岸が近づいてくると、彼岸花が土から芽を出し天に向かって
鮮やかな赤い花を咲かせます。鮮やかなその花の色だけではなく、
神秘的なその姿は「曼珠沙華」=「天界の花」として仏教でも親しまれてきました。
妖艶なその形姿に目を奪われた方も多いのではないでしょうか。 

臨済禅・黄檗禅公式サイトより

高校三年生の秋、ラグビーをしていた私は、
高校生活最後の大会に向け日々汗を流していました。
最後の大会が始まる二ヶ月前の九月のこと、
私は練習中に右の足を骨折してしまいました。
私は、「レギュラーとして最後の大会に出るために、これまで励んで
練習してきたのはなんだったのだろうか。」と、
まるで暗闇に突き落とされたかのように深く落ち込み、
ラグビーボールを見ることすら嫌になってしまいました。

何も考えられず呆然と数日過ごしている内に、やがて台風が来襲してきました。
強風が吹き荒れ、木の葉や枝があちこちに散乱し、
チラホラと咲き始めていた彼岸花も根元からなぎ倒されてしまいました。
その数日後のことです。松葉杖を突きながら境内を歩いていると、
台風で根元から折れた彼岸花が先端を再び天に向け、
倒れながらも燃えるように鮮やかな赤い花を咲かせていたのです。

私はその時、胸がぐっと熱くなったのと同時に「あーっ、これだ!」と心の中で
叫んだのです。そして、心が折れたまま何もできない自分を恥じたのです。
それまで「高校最後の大会までレギュラーでいたい」ということに
執着していましたが、倒れても尚、上を向いて一生懸命に花を咲かせる
彼岸花の姿をみてレギュラーでいるこだわりがスッと消えて
心が軽やかになったのです。

それからは、練習はできなくてもチームの為に練習前にボールに空気を
入れることができるのではないか、
練習中にチームメイトが飲むドリンクを準備することが
できるのではないかと気付き、
積極的に裏方の仕事ができるようになったのです。

すると、今まで当たり前のように蹴っていたボールも、
喉が渇いた時に当然のように飲んでいたドリンクも、
人並みに走ることができたこの脚も、
すべて有り難いことだったのだと気付くことができたのです。

高校生活最後の試合にグラウンドに立つことは叶いませんでしたが、
倒れたら倒れたなりに咲かせる花があることを、
あの彼岸花から学んだ気が致します。

わたしたちはついつい余計なこだわりや執着にしがみつき、
気付けば重たい荷物を背負ってしまいがちです。
その重たい荷物を下ろしてしまえば、心に清々しい風が吹き足取りも
軽やかになるのではないでしょうか。

現状の地位や名誉にこだわり縛られる人生を解放しませんか?
私たちは何のために生きて、何ために死んで行くのでしょうか?
どのような時にでも置かれた場所で花咲くことを忘れないようにしましょう。

私は帰国後CBSSONYで初めて仕事をした時に最初に考えたのは、
「人の嫌がる仕事」を率先して行うことでした。
英国帰りが気取るのは簡単ですが、そうでなくて新人は新人らしく、
仕事に没頭したのです。
スタジオの散らばったコードの片付け、コントロール・ルームの
汚れたテーブルの片付け、灰皿やゴミの片付けなど率先して行ったのです。
時にはお客様のお弁当の手配から送迎のタクシーの手配までしました。

今の自分は人並みの仕事をこなすことは出来ないから、
人の嫌がる仕事は全部引き受けようと思ったのです。
大切なことは指示されたから動くのではなく、指示されなくても、
スタッフの一員として出来ることを自ら探して行うことです。

その当時、同僚から笑われたり、馬鹿にされても気にはなりませんでした。
何故なら自分の生きる目標はこんな低いところには置いてなかったからです。

一日も早くいい仕事はしたいけれども未熟な自分は手伝うことしか出来ないからです。
何もしなくて手を挙げなければ誰もあなたに注目はしません。

英国で学んだことは常に自分の意思は、
自分で伝えなければ見過ごされてしまうことです。

今ある場所でどんな仕事でも一流になれば、必ず次のステージとつながります。
大切なことは何事においても真剣にベストを尽くさなければ成功にはつながりません。
逆境に花咲くことが最も大切です。風に押し倒されても立ち上がる精神が必要なのです。

下載清風(あさいのせいふう)
風に倒されても負けずに天を向くことが大切です。
この気持ちがあれば辛い人生も楽しく過ごせます。

曼珠沙華の花咲く季節にて