対話

 

「どんな会話の中にも二つの対話が有る。
一つは言葉によるものである。
もう一つは口調など声そのものによるものだ。

両者が一致することもあるが、たいていはくい違う。

「お元気ですか」と尋ねて「元気です」
その言葉が返って来ても「元気」という言葉そのものを、
信じる人はあまりいないと思う。

むしろ声の調子などから相手が本当に元気なのか、
落ち込んでいるのか、不安なのか、
興奮しているのか等の感情を感じ取る。

口調、声の大きさ、早さなど声からわかる特徴から、
言葉では無い会話の流れもキャッチし、真実を掴み取るのだ。

悲しみ、不機嫌さ、不満等は分かりやすい。
不安や恐怖や困惑などはよほど注意しなければ聞き逃してしまう。」
ジョーエレン・ディミドリアス著「この人はなぜ、自分の話ばかりするのか」より

人と対面する仕事において一番大切な事は
相手の真意をいち早く察知する能力である。
しかし時には深読み過ぎて失敗する事もある。
相手のちょっとした仕草や言葉から真実を探りださなければ
ならないのだが勝手に脚色をして誤認をする。

我々が日常対面するアーティストは
一般的な人よりも言葉数が少ない。
その言葉の中から何を考えているのか、

何を大切にしているのか、
何に価値観を持っているのかを
探しださなければならないのです。

新人のオーディションの時に、
彼らがおどおどしていても、
俯き加減で心を隠していても、周りの物音に
敏感になっていても、アーティストとしての
彼らの才能を見つけ出さなければならないのである。

音楽の才能は通常見えない所に隠されていることが多いからである。

以前、友人から台湾出身の歌手を紹介された。
彼女は口数が少なくて目も合わせない。
自分の世界観を守る為なのか常に不機嫌な雰囲気を出していた。

歌は上手なのだが個性が強すぎて
プロデュースをするにはとても難しいタイプであった。

何度か話をしたのだが、
私の感性と彼女の感性は最後までかみ合わず採用はしなかった。

プロデューサーとしてアーティストの
心の「対話」が成立しなかったからである。

しかし、その2年後に私の別の友人が
彼女の才能を発掘して大ヒットを出した。
私の友人と彼女とは「対話」が成立したのでしょう。

アーティストにとっての「対話」は、
万人に伝わらなくても良いのです。
自分の求める運命の人(プロデューサー)と、
必要最低限のコミュニケーションが取れれば、
相手が自分の才能を見つけ出してくれからです。

プロデューサーの仕事は
沢山のアーティストを担当する事では無いのです。
優秀なアーティストに巡り合いその才能を見つけ出す事です。

そして、その才能を育てる為には双方に
信頼関係が成立しなければならない。
新人アーティストは自分の才能の自信の無さから、
殻に閉じこもっている場合が多いのです。
その為に第三者とのコミュニケーションを苦手としている人が多い。

しかし、たとえ沈黙の中でもアーティストの
表現したい事が、言葉や仕草や服装に現れているので、
経験豊富なプロデューサーは、
それらと歌詞やメロディーから十分に彼等の言いたい事が理解出来るのです。

ジョーエレン・ディミドリアスの言う所の
「どんな会話の中にも二つの対話が有る。
一つは言葉によるものである。
もう一つは口調など、声そのものによるものだ。
両者が一致することもあるが、たいていはくい違う。」

口調と声を仕草と服装に置き換えても良いのではないか。
しかしくい違う事も考慮しておくべきである。

問題は言葉巧みさでは無くて主張の情熱である。

以前、大学の講演会で学生から
「アイデアは何処から生れるのですか」という質問をうけた。
黒板に「愛が出会う」と書き、
「アイデアは愛が出会うから生れるのです」という説明をした。

どんな事でも、自分がそのものを信じて好きにならなければ、
絶対にアイデア(発想)は生まれません。
全ての発想の元は愛から生れて来るのです。
愛することによって、あらゆる角度から
多くの情報を受け取る事が出来るのです。

愛があれば目の前の聞こえる部分(言葉)と
見える部分(表情・動作)、そして隠された部分(思考)まで
深く理解することが出来るのです。

嫌いなものからは嫌悪の情報しか受け取る事ができません。
皆様も愛する事に思いっ切り悩み苦しみ、
その先から新しいアイデアを見つけ出して欲しいものです。
強い愛が有れば、
人も宇宙も大自然も動物も万物全てが必ず反応をしてくれるのです。

「対話」を恐れずに立ち向かって下さい。
主人公はいつもあなたなのです。