ヒットのツボ
第一に売れると言う強い思い込みが無ければならない。それは己の価値の押し売りである。
第二に大衆の欲しがるものを提供しなければならない。しかし「媚びる」ことをしてはならない。
第三に自分が楽しいものは他人も楽しいと思わなければならない。
必ず機能性と娯楽性を取り入れること。SONYの盛田昭夫氏もappleのスティーブジョブスもこれを忠実に守った。
どのような新商品でも価格で売るのではなく資格で売ること。
この商品はあなたにとって素晴しい。この商品はあなたを待っていた。この商品を持つ資格はあなたにある。
このセールストークで相手の琴線を震わせなければならない。
そしてとくに気にしなければならないのは、時代の景色に写り込みが良いかである。
一言でいうとカッコが良いかということである。
Aという商品を使っていれば、その後には必ずBという商品が欲しくなる。
Bという商品が生まれる前に、いち早くBを作れるかがヒットの秘訣である。
簡単に言えば、今売れている商品を肩越しに見ながら、半歩先の商品の進歩(スタイル)が浮かぶかである。
企画には物語を想像する力が必要なのである。
YAMAHAの川上源一氏曰く、将来日本が豊かになれば各家庭に一台はピアノを置く時代が来る。
今は貧乏な時代だからハーモニカやギターを売れば良い。
その子供達が大きくなって結婚すればピアノを買うようになる。
20年先をとらえた商法である。
その商法の中にはもう一つのアイディアが含まれていた。
自社のコンテストからピアノの弾き語りの女性を何人も世の中に送り出した事である小坂明子・八神純子・平松愛理である。
川上氏には、半歩先ではなく一歩先の未来が想像できていたのである。
80年代あらゆる分野で特にスポーツ界や映画界で黒人の活躍が目立ち始めた。
私の目にはとてもカッコよく見えたのである。
不思議なパワーを感じたのである。
日本人でも黒人音楽は絶対にうれると確信していた。
同時にアフリカの子供たちを救おうと著名アーティストが85年に「We are the world」を歌っていた。
発起人はライオネルリッチとマイケルジャクソンであった。
久保田利伸デビュー曲は「流星のサドル」タイトルの意味が分からないということと、
日本人には黒人音楽は合わないということで反対された。
それでも強気で押し通した。
黒人音楽と最新ファッション合言葉は「ブラックパワー」この遊び感覚が功を奏した。
松任谷由美と組んで発売した「雨音はショパンの調べ」タイトルだけで聴きたくなる。
そこに謎めいた美女小林麻美の起用である。
プロモーションは小林麻美本人を一切テレビに出さずミュージックビデオだけで勝負をした。
斬新な映像に反響を呼んだ。それ以来雨の日には必ず定番で流れるようになった。
秋元康が企画したおニャン子クラブに参加した。
女子高生の放課後これこそ肩越しで覗きこむ文化である。
河合その子「涙のジャスミンLOVE」プレゼン用に書いた自作詞が日本レコード大賞作詞賞に輝いた。
渡辺美奈代「瞳に約束」デビューイベントは前代未聞の武道館で行った。
プロデューサーの頭の中はおもちゃ箱の様でなければならない。
常に自慢のおもちゃを「箱」から取り出せるようにしておかなければならないのである。
その為には情報のアンテナを張り巡らせて好奇心の感度を良くしておかなければならない。
そして仕事をする時には、どの業界でも一番忙しい人達に依頼をしなければならないのである。
すなわち売れている媚びない人達である。
旬で輝いている人の側にいるとこちらも自然に輝き始めるのである。
これが「ヒットのツボ」かもしれない。
新しいものをいち早く作るのがプロデューサーの役目である。
そして何よりも世の中が欲しがるものを連続して発表出来るのが一流のプロの仕事である。
コピーライターで有名な仲畑貴志氏もこう言っている。
<表現サービスは受け手に対して媚びると、すぐに消費されてしまうのです。
なので表現戦術としては、とにかく「媚びるな」ということを徹底しました。
つまり「PUSH」じゃなくて「PULL」表現で、だから何回も見たくなる。
まずはモデルの能面のように笑わない。
それとダンスではなくあくまでも体操。
ダンスやらせたら駄目。
ダンスものって大体滑るのですよ。
そして、すごくシンプルな体操なんだけど、その動きは奇妙であってほしい。
そういう僕の要求項目をディレクターに伝えて忠実に実行してもらっているだけです。>
とかく媚びてしまう広告になりがちな中で、<とにかく「媚びるな」>というのが、
当たるCMのツボだったんだなと思うのです。
山だけだと、実は心に届かない。山と山の間の「谷間」がいかに重要か。
これはCMに限らず、コミュニケーション全般に言える事ではないでしょうか。
プロデューサーはある種拘りが無ければ商売にならない。
企画屋ならばクライアントが納得するまで提案すれば良いのだが、
プロデューサーはクライアントが思い付かないところまで想像して形にする能力がなければならない。
しかしクライアントに媚びてしまうと鋭さが消えてしまう。
結果大衆には印象に残らない作品になってしまう。
プロデューサーは強気で仕事を押し通すが売れなければ即刻退場である。