美しい文章




美しい文章を書く機会が少なくなりました。
手紙を書かなくなってから素敵な漢字が頭に浮かびません。

美しい文章には趣のある漢字を使わなければなりません。
私の好きな美しい文章は、特に自然をモチーフにしている場合が多いように思われます。

万葉集では「万葉集表現方法」というのがあります。
寄物陳思(きぶつちんし)恋の感情を自然のものに例えて表現
正述心緒(せいじゅつしんしょ)感情を直接的に表現
詠物歌(えいぶつか)季節の風物を詠む
譬喩歌(ひゆか)自分の思いを物に託して表現

人の考え方や感情を直接的に表現するよりも、自然界の花鳥風月で比喩されると、
文章に温かみや膨らみが感じられてとても癒やされます。

パソコンのなかった時代では辞書を片手に一文字一文字丁寧に調べながら書きました。
お手本として尊敬する作家の文体を真似たり、大好きな詩人の言葉を引用したり、
俳句や短歌からも時節の言葉を借用したりして夜通し悩みながら書いたものです。

同じ文でも引用する漢字によって文章が見違えるほど説得力を増します。
私は未だ散文のような文章しか書けませんが、常々美しい文章を書く努力をしています。

私が目指す美しい文章とは「音楽のような文章」です。
音楽の三要素は、「リズム・メロディ・ハーモニー」
この三つの調和がとれた流れが「美しい」音楽となるように、
文章も、この三つが整うと「美しい」・「流れるような」文章になるのです。

音楽プロデューサーの書く文章ですから、
スムーズに流れるような読みやすい文章になるように心がけています。

先ずはタイトル(表題)を決めます。
楽曲のタイトルと同じように重要なポイントになります。
タイトルは読み手が読みたくなるようなタイトルでなくてはなりません。

私がレコード大賞作詞大賞でいただいた河合その子「涙のジャスミンLOVE」は
香港を舞台とした失恋ソングです。

ジャスミン(茉莉花茶)を入れることによって中国のイメージを出しました。

そして核となる文体を決めます。
タイトルの意味が伝わるようなリズミカルな流れを構成します。
言いたいことを最初に持ってくるか、盛り上がるサビの部分に持ってくるか、
それともエンディングに持ってくるかを考えます。

「涙のジャスミンLOVE」ではイントロの部分はスローテンポで入り、
歌詞も、
「このまま瞳を閉じてあなたと(二人で)Fall in love Again 
黄昏くれるAh Ah 異国の丘の上で」と続いて本編でテンポをあげて
丘の上から車で降りて来るスピード感を取り入れました。

次に流れるようなメロディー(主題)を書き込んでいきます。
ひとつの文章が長くなると読む方は辛くなります。
音楽の詩のように歯切れの良い長さで調整します。
歌詞を書く時には体言止めの手法をよく使います。
また末尾の言葉を同じ韻で止めるとテンポ感が出て来ます。

E-ZEE BAD「悲しみのLOVE TRAIN」という曲では、くの体言止めで印象を残しました。
悲しみのLove Train Love Train 遠く
走り出したこの愛は君へと続く
逃げ込んだ夢までが崩れてく
ささやかな愛でも君が欲しい
誰に笑われようが構わない
出口のない迷路は君に向かう

最後に読者が共感するハーモニー(和音)を決めます。
歌の世界で云うとコーラス(合唱大サビ)の部分です。
調和の取れた音同士を選ばなければなりません。

時代にあった言葉をはめ込むことが多くの人の共感を得られます。
分かりやすくて口ずさみたくなるような調和の取れた言葉です。
美しい文章を作るためには、美しいハーモニーが必要になるのです。

久保田利伸「失意のダウンタウン」では黒人音楽を伝えるために、
Shine on my Shine on my dangerous road
Drive on my way keep on my own
Shine on my Shine on my wonderous future
With all my conscious response
夜を超えていくのさ 流星のサドルで
ゴールなんてなくていいのさ 星をつかもう

英語の歌詞と印象に残る「流星のサドル」が功を奏して一躍大ヒットとなりました。

先日、友人から「ある文章」に対して過分なお褒め言葉を頂きました。
私の書いた拙い文章に最大の賛辞をいただけたのです。

皆様はこの言葉(表現)を知っていましたか?

「錦心繍口」
きんしんしゅうこうと読みます。

唐代の詩人・柳宗元(りゅうそうげん)による『乞巧文(きっこうぶん)』
を出典とします。その意味は、詩文の才能に優れている例えで、
美しく優れた思いと言葉を操る文筆家への讃辞といったところでしょうか。

「錦心(きんしん)」は錦のように美しい思いや心を意味し、
「繍口(しゅうこう)」は刺繍のように美しい言葉を指します。

このような言葉を知っているだけで良き文章が書きたくなります。

如何だったでしょうか?
今回の文章は読みやすくて意味が伝わる内容だったでしょうか?
美しいハーモニーやコーラスが聞こえて来たでしょうか?
これからも素敵な「美しい文章」を書けるように精進します。