音楽家を目指す君たちへ
音楽とは時間(一瞬)の芸術です。
今弾いた音が、今吹いた音が、今歌った声が、すぐに消えて行くのです。
譜面を追って周りの演奏家に合わして、あたふたしている間に終わってしまうのです。
そこで君は何をしていたのであろうか?
音楽が好きで音楽を始めたとしても、音楽の世界は必ず演奏者と聞き手に分かれる。
聞き手は何を聞きに来ているのだろうか?
音楽家の奏でる音を聴きに来ているのか、
音楽家の生きてきた過去を聴きに来ているのか、
音楽家の瞬間に出すエネルギーに酔いしれる為に来ているのかそれぞれです。
そして絶対忘れてならないのは音の気が抜ける恐れとの戦いである。
どんなに楽しく演奏をしても一瞬違う世界に引き込まれてしまうと、
「聴き合う」タイミングで音の気が抜けるのである。
メンバーと打ち合わせで決めたポジションで決められた音が出せない。
演奏家には常にこの恐怖が襲いかかる。
音は生き物である。先ほどの音は二度と戻らないのである。
演奏がたとえ上手になったとしても、褒められて有頂天になったとしても、
失敗を繰り返して何度も辞めたいと思ったとしても、すべては自分との戦いなのである。
初心者でもベテランでも音に対する情熱があれば常に苦悩するのである。
音楽とは何だろうか?音を楽しむとは何だろうか?
誰かの人生に「一瞬でもこの音楽を聴いてよかった」と思われるような
演奏は出来るのだろうか?と自問自答を繰り返す。
感動は演奏者自身が感動しなければならないのです。
会場全体の空気にまで演奏者の感動が伝わり、
共振するから聞き手にまで感動が行き渡るのです。
感動とは心が動くことを言います。
演奏する方と聞く方が、同時に魂が震えることを言います。
「啐啄同機」(さいたくどうき)
卵が孵化するときは、卵の中のヒナが殻を自分のくちばしで破ろうとし、
また親鳥も外からその殻を破ろうとする、
そのタイミングがピタッと一致するからからこそ、
ヒナ鳥はこの世に生を受けて外の世界に出ることが出来る。「禅語」
演奏家の奏でる音と聴衆の聞きたい音がピタッと一致した時に感動が生まれるのです。
つづく