プロの見誤り
ソムリエがワインの説明をする。
ボトルを見せながら産地、品種、評判、味わいなどを言う。
そこで最初に自分の飲んだ味わいを言わないのが礼儀である。
しかし客から問われれば詳しい味わいの感想は述べる。
私はいつもソムリエにあなたのこのワインに対する飲んだ評価はと聞く。
自分が飲んだことの無いワインを客に勧めるのは、単にソムリエの
儀式だけであって、本当の推薦にはならないからである。
ソムリエが最も陥りやすい誤りとは情報と知識(データー)に頼るからである。
そのデータが、最新のものか、使い古したものかは判断に大きく左右される。
大切なことはブドウの品質だけではなく、その時代の政治的背景や世相や
気候の状態なども含まれなければ片手落ちになる。
ワイナリーの歴史と開発者の意図と土壌の特徴が説明されても
まだまだ十分とは言えない。そこにはワイナリーの秘密が存在するからである。
それを聞いて口にするのがワインの醍醐味である。
ここにこのような文章がある。
「ストーリーで選ぶ」
作家塩野七生氏の心に響く言葉より…
私がワインを選ぶときはね、ぜんぶストーリーがある(笑)。
つまりねぇ、私は、その「心」であじわう。
なんども申しますけれど、多くのことは、
やはり「心」であじわうんですよ。
どのワインがいちばんうまいかってを
選ぶコンテストがありますとね、
イタリア人やフランス人は意外とだめなんです。
イギリス人が優勝したりして。
私なんかはワインのいい悪いって、
そんなに神経質になるような問題じゃないと思うの。
飲むときの空気、ヨットの上で飲んだとかね、
つまり潮風の香りとか、いろいろな要素がはいって、
おいしいとね、感じる…
それほど客観的な基準なんて、悪いけどないのよ。
要するに私たちは心であじわう。
そのために歴史や物語が助けてくれるんです。
◇『おとな二人の午後』(塩野七生&五木寛之)世界文化社
ワインのプロなら、産地や葡萄の品種、作った年代等の詳細なデータが頭に入り、
専門的な基準でワインを選ぶだろう。しかし世界中にワインがあふれている現代、
酒造メーカーを選ぶのも、商品を選ぶのも、そこに、愛好家の心に響き、
共感するような物語や歴史があるのかが最も大事になってくる。
その物語が、具体的で、真実味があればあるほど心に訴える。
プロではない一般の人たちは、客観的な基準という細かいデータや
スペックにはあまり関心がない。
全てのワインに、心に響く歴史や物語があると素敵だ。
私には友人から勧められた特別なワインがある。
そのワインはイタリアの小さなワイナリーで作られたものである。
そのワインの原料である葡萄の収穫方法に心惹かれた。
彼らは毎朝、葡萄畑へ向かってオーナーと農夫たち全員で
「今年も良いワインが出来ますように」と神に祈りを捧げていると聞かされた。
そのワインの名は「グランソール(偉大なる魂)」です。
コルクの栓を抜きそのコルクの匂いを嗅ぐ芳醇なチーズの香りがする。
グラスに少量注ぎ口に含み一口目を丁寧に味わう。
最初に土の香りを楽しむ。
フランスではワインの育った土壌はテロワールという言葉をつかい、
土壌、気候、日照、地形など、ブドウが育つ自然環境要因に
昔から重きを置いてきました。なかでも、ブドウ栽培において
土壌はとても大事な要素で、土壌がブドウの味わいに大きく影響を与えます。
例えば、海の近くの土壌で育つブドウで造られたワインは、
海水のようにほんのり塩味が感じられる。
ミネラルが豊富な味わいになったり、これは、貝などの化石を多く含んだ
石灰質の土壌で育つブドウに多くみられます。
このように、ブドウの味に直接影響を与える土壌は、
ワインの個性を生み出します。
ボトルからデキャンタにワインを移し十分に空気に馴染ませてから
お客様に振舞います。その日は妻の誕生日だったのでお客様は家内です。
口に含むたびに味が変化するので家内はとても喜んでくれました。
私は大好きなオリーブの実とブルーチーズで
ボトルが空になるまで堪能しました。
とても不思議なワインで飲み心地が良く毎年誕生日には購入しています。
しかし一般の店頭では販売しておらず申込によって購入が出来るワインです。
塩野七生さんの言うように私もワインを選ぶ時はストーリーを大切にします。
ロスアンジェルスで開かれたオークションでロスチャイルドの幻のワインを
2本購入して、近くのナパ・バレーで当時注目されていたワイナリーのオーナー
ロバートモンダミ氏にお会いして、新商品のオーパスワンを紹介して頂きました。
それ以外にも映画監督で有名なコッポラのワインもモンダミの68年?のワインも
試飲させていただきました。
ここに私なりのストーリーが作られるのです。
世界の最高級ワインと言われるロマネコンティや
シャトーペトリュスなども会員制の倶楽部で友人たちと楽しみました。
北京の友人たちにロマネコンティとダビドフ(高級葉巻)を紹介したところ
世界の市場から商品が消えたという話もありました。
その当時イタリアの高級車フェラーリも町中には溢れていました。
高度成長期の国ではよくある話です。
今は天下の素浪人になったので高級ワインを楽しむ機会は無くなりました。
貴族の嗜みのワインの知識も本棚の奥にしまい込んでいます。
今となれば良き経験をしたと満足しています。
知識は情報から学ぶか経験から学ぶかが大切です。
プロになるのであれば情報も経験も必要ですが、それ以上に会話の妙技も
必要になります。お客様の食事の満足度を誘導するのもソムリエの仕事です。
ワインだけの知識に頼りすぎるとプロとして判断を見誤りますよ。
お気をつけください。